「三角形の面積、公式に入れるだけなのに、どうしてできないんだろう」「立体の展開図を見せても、どの面がどこにくるのか、ぜんぜんピンときていないみたい」。算数のなかでも、図形の単元になると急に手が止まってしまう我が子。計算はできるのに図形はさっぱり、という様子を見て、「うちの子、図形のセンスがないのかな」と不安になりますよね。でも、図形が苦手なのは、お子さんにセンスがないからでも、あなたの教え方のせいでもありません。図形は、頭の中で形を思いうかべたり回したりする力が土台にあり、その力は経験を重ねながら、ゆっくり育っていくものだからです。
図形を理解するには、目の前の形を見るだけでなく、「頭の中で動かす」「言葉と結びつける」「平面と立体を行き来する」といった、いくつもの力を重ねて使う必要があります。どれも一朝一夕には身につきませんが、手を動かす経験を積むほど、確実に育っていきます。この記事では、中部大学 現代教育学部 准教授で算数教育の研究者でもある樋口万太郎先生(元小学校教員)の視点も交えながら、家庭でできる図形の教え方を、やさしく整理していきます。時間にゆとりのある夏休みは、遊びのなかで図形にふれるのにぴったりの時期です。
なぜ図形が苦手になるのか
「図形が苦手」とひとことで言っても、つまずいている場所は子どもによって違います。よくある理由を分けて見てみましょう。
① 頭の中で図形を動かす力が育つ途中
図形を回したり、裏返したり、頭の中でイメージする力を「空間認識」と呼びます。これは生まれつきの才能ではなく、積み木やパズルなど、たくさん手を動かす経験のなかで少しずつ育つ力です。育っている途中の段階では、頭の中だけで形を動かすのが難しくて当たり前。まだ育ちきっていないだけ、と考えてあげてください。
② 「辺」「頂点」「面」などの用語があいまい
図形には、辺・頂点・面・直角・平行といった、独特の言葉がたくさん出てきます。この用語があいまいなままだと、問題文を読んでも「何を聞かれているのか」が分からず、そこで止まってしまいます。形は分かっていても、言葉と結びついていないために苦手に見える、というケースは少なくありません。
③ 平面(○△□)と立体(積み木・箱)が結びつかない
紙に描いた四角と、実際の箱(立体)が同じ仲間だと結びつかない。展開図を見ても、それを組み立てるとどんな箱になるのかがイメージできない。この「平面と立体の橋渡し」は、図形のなかでも特につまずきやすいところです。実物にふれた経験が少ないと、平面の図だけで立体を想像するのは、大人が思う以上に難しいのです。
④ 手を動かして図形にふれた経験がまだ少ない
折り紙を折る、積み木を積む、箱を組み立てる——こうした「手でさわる」経験が、図形の土台をつくります。今はゲームや動画など画面の中で過ごす時間が増え、実際にものを組み立てて遊ぶ機会が減りがちです。経験が少ないぶん、図形のイメージが育ちにくいのは自然なこと。だからこそ、家庭で手を動かす時間をつくってあげると、ぐっと変わってきます。

図形でお子さんが止まったら、まず「どこで止まっているか」を見てあげてください。頭の中で形をイメージする段階なのか、辺や頂点といった用語でつまずいているのか、それとも平面と立体の橋渡しが難しいのか。私はこの見きわめを「見取り」と呼びます。図形は、いくつもの力が重なった単元なので、「全部わからない」ように見えても、実際に止まっているのは一か所だけ、ということがよくあります。そこを見つけて、一つずつほぐしていく。全部をいっぺんに教えようとしないことが、図形の学習ではとても大切です。
まずは「手でさわる」から、段階を分けて
図形は、いきなり公式やプリントから入ると難しい単元です。おすすめは、身につける順番を段階に分けること。①まず積み木や折り紙で、実際に図形を手でさわって遊ぶ → ②辺・頂点・面などの言葉を、実物を指しながら覚える → ③平面(描いた図)と立体(実物)を結びつける → ④公式や作図に進む、という流れです。今どこまでできているかが「見取り」で分かれば、次の一段だけに集中できます。いきなり展開図を頭の中で組み立てさせようとせず、まずは本物の箱をさわることから。焦らず一段ずつが、結局いちばんの近道です。
大切なのは、「今つまずいているのは、この一段だ」と分かってあげること。たとえば公式が覚えられないように見えても、本当の原因は用語があいまいなことだったり、平面の図が立体に結びついていないことだったりします。上の段でつまずいているのに、その一つ手前を飛ばして先へ進もうとすると、なかなか前に進めません。逆に、止まっている一段さえほぐれれば、その先はすっと通ることも多いのです。だからこそ、「全部できていない」と丸ごと捉えず、「どの一段で止まっているか」というまなざしで見てあげてください。

前提を整える——「実物」と「遊びの中で」
図形は、プリントより実物のほうが圧倒的に身につきます。土台を整えましょう。
- さわれる図形を手元に置く:積み木、ブロック、折り紙、空き箱など。自分で動かせるものがあると、形のしくみが実感できます。
- 遊びの延長でふれる:「この箱、面はいくつある?」など、遊びの中で自然に問いかけを。勉強という感じがしないほうが身につきます。
- 平面と立体を並べて見せる:描いた四角と実際の箱を並べて、「これも仲間だね」と結びつけます。行き来できると理解が深まります。
- 1日1〜2回でいい:長い勉強より、生活のなかで「これ何の形?」と聞くのを習慣に。回数を分けるほうが定着します。
今日から試せる、図形のやさしい教え方7つ
全部やろうとしなくて大丈夫。お子さんのつまずきの場所に合わせて、ひとつずつ試してみてください。どれも特別な教材はいらず、家にあるものや散歩の途中でできることばかりです。「勉強させなきゃ」と気負わず、遊びのひとつとして取り入れるくらいの気持ちで十分です。
折り紙で「折る・切る」
正方形の折り紙を半分に折ると三角形に、さらに折ると小さな三角に。折って切って開くと、思いがけない形が現れます。手を動かすうちに、図形の変化を体で覚えられます。
積み木・ブロックで立体にふれる
積み木を積んだり、ブロックで箱を作ったり。立体を自分の手で組み立てる経験が、空間認識の土台になります。「上から見たらどんな形?」と声をかけるのもおすすめです。
身のまわりから図形を探す
「時計は丸、窓は四角、屋根は三角」。家の中や散歩の途中で図形さがしをします。図形が生活の中にあふれていると気づくと、ぐっと身近になります。
なぞる・描く
定規や型を使って、三角や四角を実際に描いてみます。手を動かして線を引くうちに、「辺」や「頂点」がどこかを、体感として理解できるようになります。
展開図を実際に組み立てる
お菓子の空き箱をそっと開いて広げると、それが展開図。逆に、展開図から箱を組み立ててみる。平面と立体が「つながっている」ことを、手で確かめられます。
図形を言葉で説明し合う
「この形は、辺が4つで、角が全部直角だよ」と、親子で図形を言葉で説明し合います。言葉にすることで、あいまいだった用語がはっきりと結びついていきます。
タングラムなどの遊びに置きかえる
タングラムやパズルで、いくつかの形を組み合わせて別の形をつくる遊び。頭の中で図形を動かす練習が、遊びながら自然にできます。うまくできたら一緒に喜んで。
作図・展開図でつまずいたら
図形に親しめるようになっても、コンパスや分度器を使った作図、展開図から立体を思いうかべる問題は、また別の難しさがあります。ここは、頭の中で図形を組み立てる「空間認識」の力が特に問われるからです。慣れるまでは、実際に紙で組み立てて確かめるのが一番。「この面とこの面が、組み立てるとくっつくんだ」と、手を動かして体感すると、頭の中だけで考えるより格段に分かりやすくなります。ここでも、図だけで急がず、実物に戻る。それが遠回りに見えて確かな道です。作図でうまく線が引けないときも、「不器用だから」ではなく、道具の使い方にまだ慣れていないだけ、ということがほとんど。コンパスや定規は、何度か一緒に使ううちに、少しずつ手になじんでいきます。夏休みの工作やお菓子作りの箱づくりなどに、「これ、展開図だね」と自然にふれられると理想的です。
「まだできない」でも焦らなくて大丈夫
図形は、小学校の6年間を通して、少しずつ積み上げていく単元です。低学年で形あそびから入り、学年が上がるにつれて面積や体積、作図へと進んでいきます。でも、今スラスラできなくても、心配しすぎることはありません。空間認識の力は、遊びや生活のなかで手を動かすうちに、少しずつ育っていくものです。プリントで完璧に、と急ぐより、折り紙を折ったり積み木で遊んだりする日々のほうが、じつは確実に力になります。焦って詰め込むと「図形=いやなもの」になってしまい、かえって遠回り。夏休みのように、工作や外遊びの時間がたっぷりある時期は、図形と自然に仲よくなる絶好のチャンスです。「この箱、開いたらどんな形かな?」といった問いかけを、ぜひ日常に混ぜてみてください。できるようになるのは、その積み重ねの先です。
やりがちだけど逆効果になりやすいNG
よかれと思っての関わりが、かえって図形嫌いを強めてしまうこともあります。責める意味ではなく、「知っておくと楽になる」ものとして読んでください。
- いきなり公式を覚えさせる:土台のないまま公式だけ入れても、すぐ抜けます。まず手でさわる経験から積みましょう。
- 「センスがない」と決めつける:空間認識は経験で育つ力です。才能の問題にせず、経験を増やす方向に目を向けましょう。
- プリントだけで教えようとする:紙の上だけでは立体は実感できません。積み木や空き箱など、実物に戻るのが近道です。
- 頭の中だけで考えさせる:イメージが難しいうちは、実際に組み立てて確かめてOK。手を動かすことは逃げではありません。
- 急かす・スピードを求める:図形はじっくり味わう単元です。「できた!」の喜びを一緒に感じるほうが、次につながります。
がんばっているのは、お子さんだけじゃない
ここまで読んでくださったあなたは、それだけでもう十分にお子さんと向き合っています。図形のように、目に見えにくい「イメージする力」を教えるのは、本当に骨が折れますよね。何度説明しても伝わらないと感じると、こちらの気持ちもすり減っていく。その感覚は、多くの保護者が同じように味わっています。
だからどうか、「うまく教えられない自分」を責めないでください。図形は、学校でも時間をかけてていねいに扱う単元です。家庭でそれを完璧にやる必要はありません。あなたが一緒に折り紙を折ったり、箱を開いてみせたりしてくれること。それ自体が、お子さんにとって何よりの練習になります。今日できなくても、また明日でいい。夏休みのあいだにゆっくり、で大丈夫です。できた日には、一緒に大きく喜んであげてください。

一人で抱えなくて、大丈夫。一緒に、ぼちぼちいきましょう。🌱
それでもできない・一人だと迷うときは
いろいろ工夫しても、毎日ひとりで付き合い続けるのは大変です。「この子はどこで止まっているんだろう」「どう教えれば伝わるんだろう」——そんな悩みを、同じ立場の保護者や専門家と分かち合える場所があると、ずいぶん心が軽くなります。
「保護者の学校」は、小学生の子をもつ保護者のためのオンラインコミュニティです。中部大学 現代教育学部 准教授で算数教育の研究者・樋口万太郎先生の月2回の声かけ講座で「見取り」や具体的な関わり方を学び、家庭で小さく試し、連絡帳(実践投稿)で振り返る。この学びのサイクルを、一人ではなく仲間と一緒に回していけます。うまくいかない日も、責められずに振り返れる。そんな場所です。


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