「長い針が6のところだから…えっと、6時?」。アナログ時計の前で首をかしげる我が子。デジタル時計なら読めるのに、丸い時計になると急に分からなくなる。何度教えても「短い針」と「長い針」がごちゃごちゃになってしまう。そんな様子を見て、「うちの子、大丈夫かな」と心配になりますよね。でも、時計が読めないのは、お子さんの理解が遅いからでも、あなたの教え方のせいでもありません。アナログ時計は、じつは「2種類の針が別々のことを表す」という、大人が思う以上に複雑なしくみなのです。
時計を読むには、短い針で「何時」、長い針で「何分」を、それぞれ別のルールで読み取り、頭の中で組み合わせる必要があります。しかも長い針は「5とび」で数える特別な読み方。ここを一つずつ、順番にほぐしていけば、必ず読めるようになります。この記事では、中部大学 現代教育学部 准教授で算数教育の研究者でもある樋口万太郎先生(元小学校教員)の視点も交えながら、家庭でできる時計の教え方を、やさしく整理していきます。生活のリズムがつくりやすい夏休みは、時計に親しむのにぴったりの時期です。
なぜ時計が読めないのか
「時計が読めない」とひとことで言っても、つまずいている場所は子どもによって違います。よくある理由を分けて見てみましょう。
① 「短い針」と「長い針」の役割が混ざる
短い針は「何時」、長い針は「何分」。この役割分担があいまいだと、どちらを先に読めばいいのか分からず、混乱します。まずはこの2つの針が、まったく別の仕事をしていることをはっきりさせるのが出発点です。
② 長い針の「5とび」がつかめない
長い針は、文字盤の「1」を指しても「1分」ではなく「5分」。この“5とびで数える”ルールが、時計独特のつまずきポイントです。九九の5の段とつながっているので、5とびが苦手だと時計も苦戦します。
③ デジタルとアナログが結びつかない
「8:30」は読めても、アナログの「8時半」と同じだと分からない。ふだん見ているのがデジタルばかりだと、アナログの見方が育ちにくいのです。両方を並べて「同じ時刻だね」と結びつけてあげる必要があります。
④ そもそも時計を読む「必要」を感じていない
スマホやデジタル表示があふれる今、子どもにとってアナログ時計を読む必然性はあまりありません。「読めなくても困らない」と感じていると、なかなか身が入らないのも自然なこと。だからこそ、「長い針が12にきたら公園に行こう」のように、時計を読むと“いいことがある”場面をつくってあげると、ぐっと前向きになります。

時計でお子さんが止まったら、まず「どこで止まっているか」を見てあげてください。2つの針の役割が分かっていないのか、長い針の5とびでつまずくのか、それとも「何分後」といった時間の経過が難しいのか。私はこの見きわめを「見取り」と呼びます。時計は、いくつもの読み取りが重なった単元なので、「全部わからない」ように見えても、実際に止まっているのは一か所だけ、ということがよくあります。そこを見つけて、一つずつほぐしていく。全部をいっぺんに教えようとしないことが、時計の学習ではとても大切です。
まずは「短い針だけ」から、段階を分けて
時計は、一度にすべてを教えようとすると難しい単元です。おすすめは、読む力を段階に分けること。①まず短い針だけで「何時」を読む → ②長い針が12と6のとき、「ちょうど」と「半」を読む → ③長い針の5とびで「何分」を読む → ④「何時何分」を組み合わせる、という順番です。今どこまでできているかが「見取り」で分かれば、次の一段だけに集中できます。いきなり「7時23分」を読ませようとせず、まずは「何時」がスッと言えることから。焦らず一段ずつが、結局いちばんの近道です。

前提を整える——「本物の時計」と「生活の中で」
時計は、プリントより実物のほうが圧倒的に身につきます。土台を整えましょう。
- 針を動かせる時計を用意する:手で針を回せる知育時計や、家のアナログ時計を活用。自分で動かせると、しくみが実感できます。
- 生活の場面と結びつける:「長い針が12にきたら、おやつね」など、時計と行動をセットに。時計を読む理由が生まれると、ぐっと身につきます。
- デジタルとアナログを両方見せる:同じ時刻を両方で見せて、「これも8時半だね」と結びつけます。行き来できると理解が深まります。
- 1日1〜2回でいい:長い勉強より、生活のなかで「今、何時?」と聞くのを習慣に。回数を分けるほうが定着します。
今日から試せる、時計のやさしい教え方7つ
全部やろうとしなくて大丈夫。お子さんのつまずきの場所に合わせて、ひとつずつ試してみてください。
まず「短い針=何時」だけを読む
長い針はいったん置いておき、短い針が指す数字で「何時」だけを読む練習から。「3と4のあいだなら3時台」と、範囲で読めるようにします。
「ちょうど」と「半」から始める
長い針が12なら「ちょうど」、6なら「半」。まずはこの2つだけ。「7時ちょうど」「7時半」が言えるようになってから、細かい分に進みます。
「5とび」を口で言えるようにする
「5、10、15、20…」と、文字盤を指しながら5とびで数える練習。これがスラスラ言えると、長い針の何分読みが一気に楽になります。
文字盤に「分の数字」を書き込む
1の外側に「5」、2の外側に「10」…と、分の数字を小さく書いた時計を用意。目で見て確認できると、5とびが定着していきます。
親子で「今、何時?」クイズ
1日に数回、「今、何時何分?」とクイズを出し合います。生活の中でくり返すと、勉強という感じがせず、自然と読めるようになります。
「あと何分?」で時間の感覚を育てる
「7時に出るよ。あと何分?」と、時間の経過を一緒に考えます。読むだけでなく、時間を“使える”ようになると、生活にも役立ちます。
デジタルと見くらべる
アナログを読んだあと、デジタル時計で答え合わせ。「やっぱり8時半だ」と自分で確かめられると、自信につながります。
「何分後」でつまずいたら
時計を読めるようになっても、「今3時20分。40分後は何時何分?」といった“時間の経過”の問題は、また別の難しさがあります。ここは、60分で1時間にくり上がる、という時計独特のしくみ(60進法)が関わるからです。慣れるまでは、実際に時計の針を回して確かめるのが一番。「20分から40分進めると…あ、60をこえるから次の時間になるんだ」と、手で動かして体感すると、頭の中だけで考えるより格段に分かりやすくなります。ここでも、数字だけで急がず、実物に戻る。それが遠回りに見えて確かな道です。夏休みのお出かけ前などに、「あと何分で出発?」と自然に練習できると理想的です。
「まだ読めない」でも焦らなくて大丈夫
時計は小学1年生で「何時・何時半」、2年生で「何分」まで習います。でも、ここでスラスラ読めなくても、心配しすぎることはありません。時計は、生活のなかで毎日目にし、使ううちに、少しずつ身についていくものです。学校のプリントで完璧に、と急ぐより、家の時計を指さして「長い針が6にきたね、7時半だよ」と声をかける日々のほうが、じつは確実に力になります。焦って詰め込むと「時計=いやなもの」になってしまい、かえって遠回り。夏休みのように、朝起きて・ごはんを食べて・出かけて、という生活のリズムがある時期は、時計と自然に仲よくなる絶好のチャンスです。「あと10分でおやつだよ」といった声かけを、ぜひ日常に混ぜてみてください。読めるようになるのは、その積み重ねの先です。
やりがちだけど逆効果になりやすいNG
よかれと思っての関わりが、かえって時計嫌いを強めてしまうこともあります。責める意味ではなく、「知っておくと楽になる」ものとして読んでください。
- いきなり「何時何分」を読ませる:段階を飛ばすと混乱します。まず「何時」だけ、次に「半」、と一段ずつ進めましょう。
- 「さっき教えたのに」と責める:時計は複雑なしくみです。何度でも、と構えるほうが親子とも楽になります。
- プリントだけで教えようとする:紙の時計だけでは実感がわきません。針を動かせる実物に戻るのが近道です。
- デジタルを取り上げる:デジタルは敵ではありません。アナログと結びつける“橋”として活用しましょう。
- 急かす・スピードを求める:最初はゆっくりで当たり前。読めた喜びを一緒に感じるほうが、次につながります。
がんばっているのは、お子さんだけじゃない
ここまで読んでくださったあなたは、それだけでもう十分にお子さんと向き合っています。同じことを何度も、というのは、教えるほうも本当に骨が折れますよね。忙しい合間に付き合って、なかなか読めるようにならないと、こちらの気持ちもすり減っていく。その感覚は、多くの保護者が同じように味わっています。
だからどうか、「うまく教えられない自分」を責めないでください。時計は、学校でも時間をかけてていねいに扱う単元です。家庭でそれを完璧にやる必要はありません。あなたが「今、何時?」と一緒に見てくれること。それ自体が、お子さんにとって何よりの練習になります。今日読めなくても、また明日でいい。夏休みのあいだにゆっくり、で大丈夫です。読めた日には、一緒に大きく喜んであげてください。

一人で抱えなくて、大丈夫。一緒に、ぼちぼちいきましょう。🌱
それでも読めない・一人だと迷うときは
いろいろ工夫しても、毎日ひとりで付き合い続けるのは大変です。「この子はどこで止まっているんだろう」「どう教えれば伝わるんだろう」——そんな悩みを、同じ立場の保護者や専門家と分かち合える場所があると、ずいぶん心が軽くなります。
「保護者の学校」は、小学生の子をもつ保護者のためのオンラインコミュニティです。中部大学 現代教育学部 准教授で算数教育の研究者・樋口万太郎先生の月2回の声かけ講座で「見取り」や具体的な関わり方を学び、家庭で小さく試し、連絡帳(実践投稿)で振り返る。この学びのサイクルを、一人ではなく仲間と一緒に回していけます。うまくいかない日も、責められずに振り返れる。そんな場所です。


保護者向けオンラインコミュニティ「保護者の学校」
大学准教授で算数教育の研究者・樋口万太郎先生の月2回の声かけ講座で学び、家庭で小さく試し、連絡帳で振り返る。うまくいかない日も、一緒に振り返れる場所です。
2026年8月1日 開校|月額 5,980円(税込)
詳細・事前募集を見てみる ▶

