漢字が覚えられない小学生への教え方|苦手の原因と家庭のコツ

教科のつまずき

何度も書かせて、その場ではできたのに、次の日にはもう忘れている。漢字テストの前日に必死で練習しても、返ってきた答案は赤ばかり。同じ字を何度間違えても直らなくて、つい「昨日やったばかりでしょ」と言ってしまう——そんなふうに、漢字が覚えられない我が子を前に、ため息が出そうになること、ありますよね。夏休みの漢字ドリルが山積みのまま進まず、こちらの気持ちまですり減っていく。そんな経験は、あなただけではありません。でも、漢字が覚えられないのは、お子さんの記憶力が悪いからでも、あなたの教え方のせいでもありません。

漢字を覚えるという作業は、じつは「読み(音)」「形」「意味」「使い方」という、いくつもの要素を同時に頭に入れる、大人が思うよりずっと複雑な学習です。だからこそ、どの要素でつまずいているのかを見きわめて、そこだけ手伝えば、驚くほど定着し始めます。この記事では、中部大学 現代教育学部 准教授で算数教育の研究者でもある樋口万太郎先生(元小学校教員)の「見取り」の視点も交えながら、家庭でできる漢字のサポートを、やさしく整理していきます。時間にゆとりのある夏休みは、たまった漢字とあわてず向き合える、またとない機会です。

なぜ漢字が覚えられないのか

「漢字が覚えられない」とひとことで言っても、つまずいている場所は子どもによって違います。じつは、多くの子は「覚える力がない」のではなく、覚え方の“ある一か所”でひっかかっています。よくある4つの場所を見てみましょう。

① 読み(音)と書き(形)が結びついていない

「読めるけれど書けない」、あるいは「書けるけれど読めない」。これは、その漢字の“音”と“形”が頭の中で別々に置かれていて、ひもづいていない状態です。字を眺めても音が浮かばない、音を聞いても形が出てこない。すると書き取りがただの丸写しになり、いくら練習しても記憶に残りません。

② 書き取りの反復が、ただの作業になっている

ノートを同じ字でびっしり埋めているのに覚えていない。これは、手だけが動いていて、頭が働いていない“作業化”のサインです。10回書くうちの後半は、ほとんど何も考えずに写しているだけ、ということが少なくありません。回数の多さが、そのまま定着につながるわけではないのです。

③ 意味・使い方が伴っていない

形は書けても、その漢字がどんな意味で、どんな場面で使う言葉なのかが分かっていないケースです。意味の手がかりがない字は、記号の丸暗記になり、とても抜けやすくなります。「様」「議」のように、意味が抽象的で日常で使い慣れない漢字ほど、ここでつまずきがちです。

④ 覚え方が、その子に合っていない

子どもには、見て覚えるのが得意な子、書いて手で覚える子、声に出して唱えると入る子など、記憶の“入り口”に個人差があります。書き取り一辺倒の練習が合わない子に、ひたすら書かせても定着しません。合わない方法を続けている——これも、立派なつまずきの一つです。

漢字が覚えられない子と一緒に漢字の覚え方を考える親子の様子
👨‍🏫 樋口万太郎先生(中部大学 現代教育学部 准教授/元小学校教員・算数教育の研究者)

私の専門は算数ですが、「どこで止まっているか」を見てあげる——私が「見取り」と呼んでいるこの関わりは、教科を問いません。漢字もまったく同じです。読みと形が結びついていないのか、書く手が作業になっているのか、意味が分からないまま覚えようとしているのか、それとも覚え方そのものが合っていないのか。「漢字が覚えられない」とひとまとめに見えても、実際に止まっているのは、たいてい一か所だけです。そこを見つけて、その一段だけを手伝ってあげる。全部を一度にやり直させようとしないことが、漢字では特に大切です。

まずは「どこで止まっているか」を見てあげる

お子さんの漢字がなかなか入らないと感じたら、いきなり「もっと書きなさい」と練習量を増やす前に、そっと確かめてみてください。書けない字を指して「これ、なんて読む?」と聞いてみる。読みがスッと出るなら、①の“音と形の結びつき”はできています。止まっているのは意味か、覚え方のほう。逆に読み自体が出てこないなら、まだ①の段階かもしれません。「この字、どういうときに使う?」と聞いて答えられなければ③の意味です。こうして、どの要素で止まっているかが分かれば、やみくもに全部をやり直す必要はなくなります。今日はその一段だけ、一緒に越えれば十分です。書く回数を増やすより、止まっている場所を見つけるほうが、ずっと近道になります。

漢字の成り立ちを声に出しながら一緒に確認する親子の様子

前提を整える——「少しずつ」と「読みから」

覚え方のコツに入る前に、家庭の土台を少しだけ整えておくと、定着の仕方がまるで変わります。

  • 一度にたくさん、をやめる:漢字は「少数を確実に」が原則。1日にたくさん詰め込むより、1日3字を毎日のほうが、はるかに残ります。
  • まず「読み」から入る:書きの前に、すらすら読めることを先に。読めない字を書かせるのは、いちばん定着しにくい順番です。
  • 間違えた字にだけ印をつける:できた字は卒業、できない字だけに絞る。全部を毎回やり直さないだけで、負担も時間もぐっと減ります。
  • 1日に全部やろうとしない:「今日は読みと意味」「明日は書いて確認」と分けるだけで、気持ちが軽くなります。

今日から試せる、漢字の覚え方7ステップ

全部を一度にやろうとしなくて大丈夫。お子さんが止まっている場所に合わせて、必要なステップから試してみてください。

ステップ 01

まず「読み」を先に固める

書く前に、その字がすらすら読めるかを確認。読めない字は書けません。教科書の音読や、ふりがな付きで何度か声に出すだけで、書きの土台ができます。音と形をつなぐ、いちばん最初の一歩です。

ステップ 02

部首・成り立ちで「意味づけ」する

「休む」は人が木に寄りかかる形、「泳」はさんずいで水に関係——由来やイラストで意味を添えると、記号の丸暗記が“納得”に変わります。部首でグループにすると、似た字の意味も見えてきます。

ステップ 03

五感を使う(空書き・指なぞり・声出し)

鉛筆なしで指を動かす「空書き」、机や手のひらに指でなぞる、「いち・にい…」と唱えながら書く。見る・書く・声に出すを重ねると、その子に合った“入り口”から記憶に入っていきます。

ステップ 04

少数を、毎日くり返す(1日3字)

10回だらだら書くより、3字を「今日・明日・明後日」と間をあけて出会わせるほうが定着します。書くのは1字3〜5回で十分。“作業”になる前にやめるのが、じつはいちばん効きます。

ステップ 05

熟語や文の「中で」覚える

字を単体で覚えるより、「学校」「校庭」のように熟語や短い文で覚えると、意味と使い方が一緒に入ります。「その漢字を使って一文つくってみよう」も効果的。使える漢字は、忘れにくい漢字です。

ステップ 06

間違えた字だけを、あとで復習する

できた字は繰り返さない。間違えた字だけを“わたしの苦手リスト”にためて、そこだけをもう一度。全部をやり直すより短い時間で、弱いところだけをピンポイントで埋められます。

ステップ 07

最後は「テスト形式」で確認する

覚えたつもりを、覚えたに変えるのがテストです。お手本を隠して書く、親が読み上げて書き取る、クイズにする。思い出す作業そのものが記憶を強くします。できたら大きく丸をつけてあげてください。

小学校で習う漢字は1026字——「終わりが見える」と気が楽になる

漢字は次々に出てくるので、親も子も「果てしない」と感じてしまいがちですよね。でも、小学校の6年間で学ぶ漢字(教育漢字)は1026字と定められていて、ゴールのある学習です(出典:文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 国語編」)。学年ごとに習う字も決まっていて、1年生は80字、と段階的に積み上がっていきます。一気に全部を覚える必要はなく、その学年の分を、少しずつ確実に。そう考えると、目の前のドリルも「この学年ぶんを、ぼちぼち」と捉え直せます。今つまずいている数字を数えると、意外と「あと少し」だったりもします。全体像が見えると、親の焦りも子のプレッシャーも、ふっと軽くなります。

「まだ覚えられない」でも焦らなくて大丈夫

漢字は、学年が上がり、読む量・書く量が増えるにつれて、あとから定着していくことがよくあります。今すぐ全部を完璧に書けなくても、それでこの子の国語の力が決まるわけではありません。一度で覚えられる子もいれば、何度も出会ううちにゆっくり入る子もいて、そのペースの違いは、優劣ではありません。むしろ、練習を厳しくやらせすぎて「漢字はいやなもの」と感じさせてしまうことのほうが、長い目で見ると大きなつまずきになります。昨日書けた字が今日抜けていても、それは失敗ではなく、記憶が定着していく途中の、ごく自然な過程です。周りの子の進み具合と比べて焦る必要はありません。一字読めた、意味が言えた、昨日の字を今日も書けた——その小さな一歩を、どうか一緒に喜んであげてください。夏休みは、その積み重ねにじっくり付き合える、貴重な時間です。

やりがちだけど逆効果になりやすいNG

よかれと思っての関わりが、かえって「漢字ぎらい」を強めてしまうこともあります。責める意味ではなく、「知っておくと楽になる」ものとして読んでください。

  • とにかくたくさん書かせる:10回20回の書き取りは、後半が作業になり頭に残りません。少ない回数を、間をあけて出会わせるほうが定着します。
  • 間違いをきつく責める:「また間違えた」の一言で、漢字が“こわいもの”に。間違いは弱点が見えたチャンス、と受け止めてあげてください。
  • とめ・はね・きれいさを求めすぎる:最初から美しさを求めると、書くこと自体がいやになります。まずは正しく書けたことを認めるのが先です。
  • 読みを飛ばして書きから始める:読めない字を書かせるのは、いちばん定着しにくい順番。読み→意味→書き、の順が結局の近道です。
  • テスト直前に一気に詰め込む:その場はできても、翌日には抜けます。毎日少しずつのほうが、疲れずに、確実に残ります。

がんばっているのは、お子さんだけじゃない

ここまで読んでくださったあなたは、それだけでもう十分にお子さんと向き合っています。漢字の練習は、毎日つきっきりで見て、読みを聞き、間違いを直し、覚えられない横で言葉をかけ続ける——それは、思っている以上に根気のいることですよね。せっかく付き合っても翌日には忘れていると、こちらの気持ちもすり減っていく。その感覚は、多くの保護者が同じように味わっています。

だからどうか、「うまく覚えさせられない自分」を責めないでください。漢字は、学校でも時間をかけて指導するほど、定着に手間のかかる学習です。家庭でそれを完璧にやる必要はありません。あなたが隣で「この字はどんな意味かな」と一緒に考えてくれること。その関わりそのものが、お子さんにとって何よりの助けになっています。今日覚えられなくても、また明日でいい。夏休みのあいだにゆっくり、で大丈夫です。一字書けた日には、一緒に大きく喜んであげてください。

漢字学習のサポートに向き合いつつ、自分の時間も大切にする保護者
一人で抱えなくて、大丈夫。一緒に、ぼちぼちいきましょう。🌱

それでも覚えられない・一人だと迷うときは

いろいろ工夫しても、毎日ひとりで付き合い続けるのは大変です。「この子はどこで止まっているんだろう」「どう声をかければ、いやにならずに続けられるんだろう」——そんな悩みを、同じ立場の保護者や専門家と分かち合える場所があると、ずいぶん心が軽くなります。

「保護者の学校」は、小学生の子をもつ保護者のためのオンラインコミュニティです。中部大学 現代教育学部 准教授で算数教育の研究者・樋口万太郎先生の月2回の声かけ講座で「見取り」や具体的な関わり方を学び、家庭で小さく試し、連絡帳(実践投稿)で振り返る。この学びのサイクルを、一人ではなく仲間と一緒に回していけます。漢字ドリルに付き合う手が止まった日も、責められずに振り返れる。そんな場所です。

漢字学習への取り組みを日々振り返る保護者の様子
中部大学 現代教育学部 准教授が講師

保護者向けオンラインコミュニティ「保護者の学校」

大学准教授で算数教育の研究者・樋口万太郎先生の月2回の声かけ講座で学び、家庭で小さく試し、連絡帳で振り返る。うまくいかない日も、一緒に振り返れる場所です。

2026年8月1日 開校|月額 5,980円(税込)

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