音読の宿題の時間。教科書を開いたまま、「はれた……ひが……」と一文字ずつたどるように読む我が子。同じ行を二度読んだり、行を飛ばしたり、途中で止まって黙り込んだり。何度も同じところでつっかえるのを聞いていると、つい「さっきも読んだでしょ」「もっとスラスラ読んで」と言ってしまって、余計にたどたどしくなる——毎日くり返す宿題だからこそ、音読が苦手なお子さんの姿に、こちらの気持ちもすり減っていきますよね。でも、音読が苦手なのは、お子さんの頭の回転が遅いからでも、あなたの教え方のせいでもありません。
音読というのは、「文字を目で追う」→「音に変える」→「意味を取る」→「声に出す」という、いくつもの作業を同時にこなす、実はとても高度な活動です。だからこそ、どの作業でつまずいているのかを見きわめて、そこだけ支えてあげれば、読みは少しずつほぐれていきます。この記事では、中部大学 現代教育学部 准教授で算数教育の研究者でもある樋口万太郎先生(元小学校教員)の「見取り」の視点も交えながら、家庭でできる音読のサポートを、やさしく整理していきます。時間にゆとりのある夏休みは、あわてず一緒に取り組める、またとない機会です。
なぜ音読が苦手なのか
「音読が苦手」とひとことで言っても、つまずいている場所は子どもによって違います。多くの子は「読む力がない」のではなく、どこかの作業に力を取られて、次に進めずにいます。よくある4つの場所を見てみましょう。
① 文字を音に変えるところでつまずく(拾い読み)
「は・れ・た」と一文字ずつたどるように読む、いわゆる拾い読み(逐次読み)です。文字を覚え始めた低学年に多く見られます。文字と音を結びつけるのにまだ時間がかかり、そこに力のほとんどを使ってしまうため、たどたどしく、ゆっくりにしか読めません。読みの一番の土台になる部分です。
② 語や文のまとまりで読めない
一文字ずつは読めても、「あおい・そらが」のように語のかたまりでとらえられず、「あ・お・い・そ・ら・が」と切れてしまう。単語のまとまりを目でつかむ力がまだ育っていない状態です。知らない言葉や漢字まじりの文になると、とくに区切りがバラバラになりがちです。
③ 読むことに必死で、意味が入ってこない
声に出すことに精いっぱいで、「今、何を読んだ?」と聞いても内容が残っていない。文字を音に変える作業に力を取られると、意味を考える余裕がなくなります。読めているように聞こえても、内容が頭に入っていないのは、この段階でつまずいているサインです。
④ 間違えるのがこわい・自信がない
本当はもう少し読めるのに、間違いを指摘され続けた経験から、「また間違えるかも」と身構えて声が小さくなる。読むこと自体がこわくなっているケースです。これは力の問題ではなく、気持ちの問題。ここが固まっていると、ほかがどれだけできても前に進みにくくなります。

私の専門は算数ですが、「どこで止まっているか」を見てあげる——私が「見取り」と呼んでいるこの関わりは、教科を問いません。音読もまったく同じです。文字を音に変えるところで止まっているのか、語のまとまりでつかめずにいるのか、声に出すのに精いっぱいで意味まで手が回らないのか、それとも間違いがこわくて声が出ないのか。「音読が苦手」とひとまとめに見えても、実際に止まっているのは、たいてい一か所だけです。そこを見つけて、その一段だけを支えてあげる。全部を一度に直そうとしないことが、音読では特に大切です。
まずは「どこで止まっているか」を見てあげる
お子さんの読みが引っかかったら、いきなり「ちゃんと読んで」と言う前に、そっと様子を見てください。一文字ずつたどっているなら①、文字は読めるのに区切りがバラバラなら②、スラスラ読めているのに内容を聞くと答えられないなら③、読めるのに声が小さく身構えているなら④、というふうに、つまずきの場所が見えてきます。おすすめの順番は、①文字と音がつながる → ②語のまとまりで読める → ③意味を取りながら読める → ④安心して声に出せる、という流れです。「見取り」で止まっている場所が分かれば、やみくもに全部を練習させる必要はなくなります。今日はその一段だけ、一緒に越えれば十分です。

前提を整える——「短く」と「安心して」
練習のコツに入る前に、家庭の土台を少しだけ整えておくと、進み方がまるで変わります。
- 長く読ませない、1日3〜5分で十分:音読は集中力を使います。長くやるより、短く毎日のほうが力になります。「今日はこの1段落だけ」で大丈夫です。
- 間違いをその場で直しすぎない:一語ごとに訂正されると、読むことがこわくなります。読み終わるまで、まずは最後まで聞いてあげましょう。
- 比べる相手は「昨日のその子」だけ:きょうだいやクラスの子と比べない。昨日より一か所スラスラ読めたら、それが立派な成長です。
- 1日にひとつのことだけ:「今日は区切りだけ」「明日はすらすら読めた所を褒める」と分けると、親子とも気持ちが軽くなります。
今日から試せる、音読が苦手な子への7ステップ
全部を一度にやろうとしなくて大丈夫。お子さんが止まっている場所に合わせて、必要なステップから試してみてください。
まず親が読んで、あとを追ってもらう(追い読み)
親が一文(または一区切り)を読み、そのすぐあとに子が同じところを読む。お手本の「音」を耳で受け取ってから読めるので、①の拾い読みでつまずく子でも、ぐっと読みやすくなります。
指でなぞりながら読む
読んでいる文字を指で追いながら声に出す。目と声がそろい、行の飛ばしや二度読みが減ります。指がものさし代わりになって、「今どこを読んでいるか」が本人にも分かります。
短い文から始める
いきなり1ページではなく、一文、一段落から。「ここまで読めたね」と区切って成功を積むほうが、力になります。短く終われる量に区切ることが、続けるコツです。
意味の区切りに線(スラッシュ)を入れる
「あおいそらに/しろいくもが/うかんでいる」のように、語や意味のまとまりに「/」を書き込む。②の「まとまりで読めない」に効く方法で、どこで息をつぐかが目で分かり、読みがなめらかになります。
すらすら読めた日を、その場で褒める
「今の、つっかえずに読めたね」「昨日より上手」と、できた瞬間に言葉にする。④の「こわい・自信がない」をほぐす一番の薬は、小さな成功を一緒に喜ぶことです。
好きな本で音読してみる
教科書だけにこだわらず、好きな絵本や図鑑、マンガのセリフでもOK。「読みたい」気持ちがあると、③の意味も自然と入ってきます。楽しく声に出せた経験が、宿題の音読も支えます。
録音して、あとで一緒に聞く
スマホで読みを録音し、あとで本人と聞いてみる。「自分がどう読んでいるか」を客観的に感じられ、上達も耳で分かります。上手に読めた回を残しておくと、自信の“お守り”になります。
そもそも音読は、何のためにやるの?
「毎日の音読、正直めんどうだな」と感じる日もありますよね。じつは音読は、学校でもとても大切にされている活動です。小学校の学習指導要領では、音読は低学年から「語のまとまりや言葉の響きなどに気を付けて音読すること」と位置づけられ、「読むこと」だけでなく、話すこと・聞くことや書くこととも関連づけて指導するよう示されています(出典:文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 国語編」)。つまり音読は、単に声に出す練習ではなく、文字を読む力・意味をとらえる力・言葉を味わう力を、まとめて育てる土台なのです。だからこそ、②の「語のまとまりで読む」練習は、遠回りに見えて、読みの力そのものを伸ばしていきます。うまく読めない日があっても、続けること自体に意味がある——そう思うと、毎日の音読に少しだけやさしい気持ちで付き合えるかもしれません。
「まだスラスラ読めない」でも焦らなくて大丈夫
音読は、学年が上がるにつれて少しずつスラスラになっていくものです。低学年で拾い読みになるのは、ごく自然な発達の途中。「早く・上手に」を最初から求めなくて大丈夫です。今つっかえていても、それでこの子の国語の力が決まるわけではありません。むしろ、指摘されすぎて「読むのはいやなもの」と感じさせないことのほうが、ずっと大切です。親が横できれいに読ませようと構えるより、たどたどしくても「最後まで自分で読めた」という感覚が残るほうが、来年のその子を支えます。周りの子の読みの速さと比べて焦る必要はありません。一行つっかえずに読めた、区切りで息をつげた、好きな本を声に出せた——その小さな一歩を、どうか一緒に喜んであげてください。スラスラ読めるようになるのは、その積み重ねの先です。夏休みは、その積み重ねにじっくり付き合える、貴重な時間です。
やりがちだけど逆効果になりやすいNG
よかれと思っての関わりが、かえって「音読ぎらい」を強めてしまうこともあります。責める意味ではなく、「知っておくと楽になる」ものとして読んでください。
- 一語ごとに間違いを訂正する:つっかえるたびに直されると、読むことがこわくなります。まずは最後まで読ませ、直しは読み終えたあとに、そっと一つだけ。
- 「もっと早く・大きな声で」とせかす:焦らせるほど、読みは固まります。速さより「最後まで読めた」を大事にしましょう。
- きょうだいやクラスの子と比べる:「お姉ちゃんはできたのに」は、やる気を一番そぎます。比べるのは昨日のその子だけで十分です。
- 長い文章を一気に読ませる:疲れて集中が切れ、ミスが増えます。短く区切って、少しずつが結局の近道です。
- ため息や不機嫌な表情を見せる:言葉にしなくても、子は敏感に感じ取ります。安心できる空気こそ、読みがほぐれる一番の条件です。
がんばっているのは、お子さんだけじゃない
ここまで読んでくださったあなたは、それだけでもう十分にお子さんと向き合っています。音読は「毎日、親が横で聞かなければならない」という点で、負担の大きい宿題です。仕事や家事のあいまに、つっかえる読みを最後まで聞き、間違いを飲み込み、励まし続ける——それは、思っている以上に骨の折れることですよね。せっかく付き合っても上達が見えにくいと、こちらの気持ちもすり減っていく。その感覚は、多くの保護者が同じように味わっています。
だからどうか、「うまく聞いてあげられない自分」を責めないでください。音読は、学校でも毎日くり返し扱うほど、時間のかかる積み重ねです。家庭でそれを完璧に支える必要はありません。あなたが隣で「今の、上手だったね」と一緒に喜んでくれること。その安心そのものが、お子さんにとって何よりの助けになっています。今日つっかえても、また明日でいい。夏休みのあいだにゆっくり、で大丈夫です。一行スラスラ読めた日には、一緒に大きく喜んであげてください。

一人で抱えなくて、大丈夫。一緒に、ぼちぼちいきましょう。🌱
それでも読めない・一人だと迷うときは
いろいろ工夫しても、毎日ひとりで付き合い続けるのは大変です。「この子はどこで止まっているんだろう」「どう声をかければ安心して読めるんだろう」——そんな悩みを、同じ立場の保護者や専門家と分かち合える場所があると、ずいぶん心が軽くなります。
「保護者の学校」は、小学生の子をもつ保護者のためのオンラインコミュニティです。中部大学 現代教育学部 准教授で算数教育の研究者・樋口万太郎先生の月2回の声かけ講座で「見取り」や具体的な関わり方を学び、家庭で小さく試し、連絡帳(実践投稿)で振り返る。この学びのサイクルを、一人ではなく仲間と一緒に回していけます。宿題に付き合う手が止まった日も、責められずに振り返れる。そんな場所です。


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