「うちの子、算数だけどうしても苦手みたい」。テストの点を見てため息が出たり、宿題のたびに「わからない」とえんぴつが止まってしまったり。国語や生活科は楽しそうなのに、算数になると急に表情が曇る——そんな我が子を見て、胸がざわつきますよね。けれど、算数の苦手を克服できないのは、お子さんの頭が悪いからでも、あなたの教え方が足りないからでもありません。算数は「前に習ったことの上に、次が積み上がっていく」教科。だからどこか一か所でつまずくと、その先が芋づる式に分からなくなる、という性質をもともと持っているのです。
言いかえれば、つまずいている“その一か所”を見つけて戻れば、そこから先はもう一度つながり出します。この記事では、中部大学 現代教育学部 准教授で算数教育の研究者でもある樋口万太郎先生(元小学校教員)の視点も交えながら、家庭でできる算数の苦手の克服のしかたを、やさしく整理していきます。学校の進度に追われない夏休みは、前の単元にゆっくり戻れる、一年で最高のタイミングです。
なぜ算数が苦手になるのか
「算数が苦手」とひとことで言っても、原因はお子さんによって違います。算数の苦手を克服する第一歩として、まずはよくある背景を分けて見てみましょう。
① 算数は「積み上げ教科」だから、前のつまずきが連鎖する
算数は、たし算がわかるからかけ算へ、くり上がりがわかるから筆算へ、と一段ずつ積み上がっていきます。だからどこか前の単元に穴があると、そこに乗っている単元まで一緒にぐらつきます。「今つまずいている場所」が、実は「本当の原因」ではないことが多いのはこのためです。
② 数や量の「感覚(数感覚)」が育つ途中
「7は5と2」「100は10が10個」といった、数のまとまりや大小の感覚を「数感覚」といいます。これは計算のドリルだけでなく、生活のなかで数にふれるうちに、少しずつ育っていくもの。まだ育ちの途中だと、計算はできても“意味”がつかめず、応用でつまずきやすくなります。
③ 一度の「わからない」が、苦手意識・回避につながる
算数は答えが一つに決まる分、「できた・できない」がはっきり見えてしまう教科です。一度「わからない」を強く味わうと、「自分は算数がダメだ」という思い込みが生まれ、問題を見ただけで手が止まる“回避”につながります。実力より先に、気持ちがブレーキをかけてしまうのです。
④ 「わからない」と言い出せずに、置いていかれる
授業はどんどん進みます。「今さら聞けない」「みんなの前で手を挙げにくい」と、分からないまま黙ってやり過ごすうちに、気づけば大きく置いていかれてしまう。まじめで気をつかうお子さんほど、こうして静かにつまずきを抱え込みがちです。

算数でお子さんが止まったら、まず「どの単元・どの段階で止まっているか」を見てあげてください。今の単元でつまずいているように見えても、原因はもっと前の、たし算やくり上がりにあることが少なくありません。私はこの見きわめを「見取り」と呼びます。算数は積み上げ教科ですから、止まっている一段を見つけて、そこまで戻ってあげれば、その先はまたつながっていきます。大切なのは、今の学年の内容を無理に追わせないこと。とくに夏休みは、進度を気にせず前の単元に戻れる、またとない時期です。
まずは「どこで止まっているか」を見てから戻る
算数の苦手を前にすると、つい「今やっている単元」をもう一度やらせたくなります。でも、そこがつまずきの“本当の原因”とはかぎりません。おすすめは、いったん立ち止まって段階をさかのぼること。①今の単元でどこが解けないかを見る → ②その一つ前、さらに前の単元にヒントがないかをたどる → ③スラスラ解ける段階まで戻る → ④そこから一段ずつ上り直す、という順番です。「見取り」で止まっている場所が分かれば、やみくもに全部やり直す必要はなくなります。戻るのは後退ではなく、確かな土台をつくり直す作業。遠回りに見えて、これがいちばんの近道です。

前提を整える——「戻れる環境」と「安心して間違える空気」
克服のステップに入る前に、家庭の土台を整えておくと効果がぐっと変わります。
- 前の学年のドリルや教科書を手元に置く:戻ることを前提に、下の学年の教材も用意しておきます。「戻っていい」と思えるだけで、親子とも気持ちが軽くなります。
- 間違いを責めない空気をつくる:「まちがえたら直せばいい」を合言葉に。安心して間違えられる場だと、子どもは自分から挑戦できるようになります。
- 生活の中に数を混ぜる:買い物や料理など、日常のなかで自然に数にふれる機会を増やします。数感覚は、机の上だけでは育ちません。
- 1回は短く、こまめに:長時間より、10〜15分を毎日のほうが定着します。「もう少しやりたい」で終えるくらいがちょうどいいです。
今日から試せる、算数の苦手を克服するステップ7つ
全部を一度にやろうとしなくて大丈夫。お子さんのつまずきの場所に合わせて、ひとつずつ試してみてください。
つまずきの場所まで戻る
今の単元が解けないときは、一つ前、さらに前へと戻り、スラスラできる段階を探します。「ここは分かる」という土台が見つかれば、そこから積み直せます。
スモールステップに分ける
一つの問題を、いくつもの小さな段に刻みます。「まず式だけ」「次に計算だけ」と分ければ、どこでつまずくかも見えやすく、達成感もこまめに味わえます。
生活の中の算数で数にふれる
買い物で「合わせていくら?」、料理で「半分にすると?」など、暮らしのなかの算数を一緒に楽しみます。数感覚は、こうした実体験のなかで育っていきます。
「できた」を目に見える形で残す
解けたページにシールを貼る、カレンダーに○をつけるなど、がんばりを見える化します。積み上がった記録が、「自分はできる」という自信の土台になります。
まちがいを責めず、一緒に直す
×をつけて終わりにせず、「どこでこうなったのかな」と一緒にたどります。間違いは、つまずきの場所を教えてくれるヒント。責めずに宝物として扱いましょう。
得意な単元で自信を回復する
苦手ばかり続けると気持ちが折れます。図形や計算など、お子さんが得意な単元をときどき挟んで、「できる自分」の感覚を取り戻してあげてください。
短時間を、こまめに続ける
一気に長くやるより、短い時間を毎日のほうが力になります。「今日はここまで」と区切り、続けられるペースを守ることが、克服への確かな道です。
文章題・応用でつまずいたら
計算はできるのに、文章題や応用問題になると手が止まる——これもよくある悩みです。ここでのつまずきは、計算力そのものより、「文章の場面を頭にイメージできない」「どの計算を使えばいいか結びつかない」ところにあることが多いもの。おすすめは、いきなり式を立てさせず、まず絵や図にしてみることです。「あめが12個あって、3人で分けると…」を、実際に丸を12個かいて分けてみる。手で動かして場面が見えると、「これはわり算だ」と自分で気づけます。ここでも大事なのは、急がず前に戻ること。応用でつまずいたら、その手前の“意味の理解”に戻る。夏休みのゆったりした時間なら、こうした遠回りにもじっくり付き合えます。
「まだできない」でも焦らなくて大丈夫
算数は、学年が上がるほど内容が積み重なっていく教科です。だからこそ、今つまずいていても、前に戻ってやり直せば必ず取り返せます。むしろ、苦手なまま無理に先へ進むほうが、穴が大きくなってしまう。焦って今の単元を詰め込むより、いったん戻ってていねいに埋め直すほうが、結局は早いのです。テストの点や周りとの比較に心がざわつく日もあると思います。でも、算数の力は一直線には伸びません。ある日ふっと「わかった!」とつながる瞬間が、必ずやってきます。夏休みのように学校の進度から離れられる時期は、その“戻ってやり直す”のに、これ以上ない好機です。「あと少しできない」は、「これからできる」の途中。どうか、その途中を焦らず見守ってあげてください。
やりがちだけど逆効果になりやすいNG
よかれと思っての関わりが、かえって算数嫌いを強めてしまうこともあります。責める意味ではなく、「知っておくと楽になる」ものとして読んでください。
- 今の単元だけをくり返させる:原因が前の単元にあると、いくらやっても解けません。まず「どこで止まっているか」を見て、戻ることが先です。
- 「なんでわからないの」と責める:この一言が苦手意識を強めます。分からないのは当たり前、と構えるほうが親子とも楽になります。
- 他の子やきょうだいと比べる:伸び方は一人ひとり違います。比べられるほど、算数から気持ちが離れていってしまいます。
- 長時間まとめて勉強させる:疲れると効率も気持ちも下がります。短時間をこまめに、のほうが確実に定着します。
- 計算の速さばかり求める:速さより「意味の理解」が先。急かすと、分かっていても手が止まるようになってしまいます。
がんばっているのは、お子さんだけじゃない
ここまで読んでくださったあなたは、それだけでもう十分にお子さんと向き合っています。つまずくたびに付き合い、前の単元まで一緒に戻り、それでもなかなか結果が出ない——そのくり返しは、教えるほうの気持ちも本当にすり減りますよね。「私がちゃんと見てあげないと」と、一人で背負い込んでしまう方も少なくありません。
だからどうか、「うまく教えられない自分」を責めないでください。算数は、学校でも時間をかけて段階を追って教える教科です。それを家庭で完璧にやる必要はありません。あなたが「どこで止まっているんだろう」と一緒に考えてくれること。その姿勢そのものが、お子さんにとって何よりの支えになっています。今日できなくても、また明日でいい。夏休みのあいだにゆっくり、で大丈夫です。一つ解けた日には、一緒に大きく喜んであげてください。

一人で抱えなくて、大丈夫。一緒に、ぼちぼちいきましょう。🌱
それでも苦手が続く・一人だと迷うときは
いろいろ工夫しても、毎日ひとりで付き合い続けるのは大変です。「この子はどの単元で止まっているんだろう」「どこまで戻ればいいんだろう」——そんな悩みを、同じ立場の保護者や専門家と分かち合える場所があると、ずいぶん心が軽くなります。
「保護者の学校」は、小学生の子をもつ保護者のためのオンラインコミュニティです。中部大学 現代教育学部 准教授で算数教育の研究者・樋口万太郎先生の月2回の声かけ講座で「見取り」や具体的な関わり方を学び、家庭で小さく試し、連絡帳(実践投稿)で振り返る。この学びのサイクルを、一人ではなく仲間と一緒に回していけます。うまくいかない日も、責められずに振り返れる。そんな場所です。


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