「計算はできるのに、どうして文章題になるとこんなに手が止まるんだろう」——そう感じたこと、ありませんか。プリントの文章題のところだけ空欄のまま、鉛筆を持ったまま固まっている我が子。つい「ちゃんと問題読んだの?」と言ってしまって、あとから「また責めるような言い方をしちゃった…」と自己嫌悪。夜、洗い物をしながら、ふとため息が出る。そんな夜を過ごしているのは、あなただけではありません。
算数の文章題が苦手な小学生は、実はとても多いです。ベネッセや各社の調査でも、保護者が感じる「つまずきポイント」の上位に必ず文章題が入ってきます。つまり、これはあなたの声かけが足りないからでも、お子さんの努力が足りないからでもありません。文章題には、計算とはまったく別の「読む・想像する・式に置きかえる」という力が必要で、そこには段階的なつまずきの理由があるのです。
この記事では、中部大学 現代教育学部 准教授で算数教育の研究者でもある樋口万太郎先生(元小学校教員)の視点も交えながら、なぜ算数の文章題が苦手になるのか、そして家庭で「今日からできる」やさしい関わり方を、責めない前提で一緒に見ていきます。読み終わるころには、少しだけ肩の力が抜けているはずです。
なぜ算数の文章題が苦手になるのか——5つの理由
まず知っておいてほしいのは、「文章題ができない」とひとことで言っても、つまずいている場所は子どもによってまったく違う、ということです。原因を「読解力がないから」の一言で片づけてしまうと、対策もぼんやりしてしまいます。よくある理由を、具体的に分けて見てみましょう。
① 言葉(語彙)の意味があいまい
「3個ずつ」「あわせて」「のこりは」「〜の何倍」。こうした言葉は、大人には当たり前でも、子どもにとっては意味がはっきりしないことがあります。「ずつ」がかけ算のサインだと結びついていなければ、正しく式が立てられないのは当然です。
② 場面をイメージできていない
文章題は「文字で書かれた小さな物語」です。その場面が頭の中で映像として浮かばないと、どんな計算をすればいいのか判断できません。特に近年は、公園やお買い物といった「文章題に出てくる体験そのもの」が減っているとも言われ、想像の手がかりが持ちにくい子も増えています。
③ 何を聞かれているか見失っている
問題を最後まで読むうちに、最初に何を求めればよかったのかを忘れてしまう。長い文になるほど、頭の中に情報を保っておく力(ワーキングメモリ)が追いつかなくなります。これは「不注意」ではなく、脳の作業スペースの問題です。
④ 「今の単元」に引っぱられる
わり算を習っている時期は、文章題を見ると全部わり算で解こうとする。これはとてもよくあることです。目の前の単元に気持ちが引っぱられ、問題文が本当に求めていることを見落としてしまうのです。
⑤ 苦手意識・「どうせできない」という気持ち
一番見落とされがちで、一番大切なのがこれです。何度か「わからない」を経験すると、文章題を見ただけで心のシャッターが下りてしまう。「読む前からあきらめている」状態では、力があっても発揮できません。

算数の文章題を解くには、じつは4つの段階があります。①問題文を読む → ②場面を思いうかべる → ③どう解くか判断する → ④式を立てて計算する、という流れです。「文章題が苦手」と言っても、このどの段階で止まっているかは子どもによって違います。私はこれを「見取り」と呼んでいます。つまり、正解・不正解を見るのではなく、「この子はどこでつまずいているのか」を見てあげること。ここが分かると、かける言葉がまったく変わってきます。
まずやってほしいのは「どこで止まっているか」を見ること
お子さんが文章題で手を止めたとき、いきなり教えたくなる気持ちをぐっとこらえて、まず一つだけ聞いてみてください。「この問題、何を聞かれてると思う?」。この一言で、①読む段階でつまずいているのか、②場面がイメージできていないのか、③何を求めるか見失っているのかが、驚くほど見えてきます。
たとえば「聞かれていることは分かるけど、どう計算するか分からない」なら、読解ではなく③④の段階の話です。逆に「何を聞かれているのか自体があいまい」なら、①②を助けてあげればいい。つまずきの場所が分かれば、やみくもに問題数を増やす必要はなくなります。これが樋口先生の言う「見取り」の考え方です。責めるのではなく、隣で一緒に立ち止まって、詰まっている場所をそっと見つけてあげる。それが最初の一歩です。
ひとつ、具体例で考えてみましょう。「あめが12こあります。3人で同じ数ずつ分けると、1人分は何こですか」という問題。ここで手が止まったとき、原因はいくつも考えられます。「あめを配る場面が思いうかばない」ならイメージの問題(②)。「わり算だと分かるけど12÷3が出てこない」なら計算の問題(④)。「今かけ算を習っているから、つい12×3にしてしまう」なら単元に引っぱられている状態です。同じ「できない」でも、こんなに違うのです。だからこそ、まず絵に描いてもらうと、どこでつまずいているかがはっきり見えてきます。あめを12個描いて、3つのお皿に分けていく——その手の動きの中に、答えが自然と現れます。
前提を整える——文章題は「量」より「土台」
具体的なやり方に入る前に、家庭の土台を少しだけ整えておくと、その後がぐっと楽になります。ここは頑張って何かを増やすというより、「引き算」で考えるのがコツです。
- 一度にやる量を減らす:文章題は1日1〜2問で十分です。数をこなすより、1問をていねいに味わうほうが力になります。
- 計算と文章題を切り分ける:計算ドリルをたくさんやっても文章題は伸びません。別の力だと割り切って、短くていいので文章題の時間を分けて取りましょう。
- 生活の中に「数の場面」を混ぜる:買い物で「このお菓子3つでいくら?」、食卓で「あと2枚ずつ配るには何枚いる?」。文章題に出てくる場面を、日常で先に体験させておくとイメージが育ちます。
- 「わからない」と言える空気をつくる:間違えても責められない、と分かっている子は、安心して考えられます。土台はテクニックより、この安心感です。

今日から試せる、やさしい7つの声かけ・工夫
ここからは、家庭ですぐに試せる具体策です。全部やろうとしなくて大丈夫。お子さんのつまずきの場所に合わせて、ひとつずつ選んでみてください。
まずは声に出して読む(音読)
黙って読むと読み飛ばしが起きやすいもの。「一緒に読んでみよう」と声に出すだけで、「ずつ」「あわせて」などの大事な言葉が耳から入り、つまずきが見えやすくなります。
「わかっていること」と「聞かれていること」に線を引く
青で分かっている数字、赤で求めるもの、というふうに色分けしてみましょう。問題文がぐっと整理され、「何をすればいいか」が目で見て分かるようになります。
問題を「絵」に描いてみる
樋口先生も最初にすすめるのがこれです。「式を書く前に、この問題を絵にしてみよう」と声をかけ、りんごや人を描かせます。絵の上手さは関係ありません。1文読んだら1つ描く、を繰り返すと、場面が頭の中で動き出します。
絵から「ドット図」「テープ図」へ少しずつ
絵に慣れてきたら、りんごを○(丸)に、さらに大きな数は長方形の「テープ図」に。樋口先生の授業でも、絵→ドット図→テープ図と少しずつ簡単な形にしていきます。数量の関係が、シンプルな図でつかめるようになります。
「この数字は何のこと?」と一つずつ確認する
図が描けたら、「この5は何の5?」と聞いてみてください。数字と場面がつながっているかを確認できます。ここがつながると、式は自然と出てきます。
子どもを主人公にして問題を作りかえる
「たろうさんが…」を「〇〇(お子さんの名前)が…」に変えるだけで、自分ごとになり、ぐっと考えやすくなります。好きなお菓子やゲームを題材にするのもおすすめです。
「ママに説明してくれる?」と聞く
解けたあと、どう考えたかを言葉で説明してもらいます。人に説明できたら、本当に分かっている証拠。うまく言えなくても「そこまで分かってるんだね」と、つまずきの場所を一緒に見つけられます。
やりがちだけど逆効果になりやすいNG
よかれと思ってやっていることが、かえって苦手意識を強めてしまうこともあります。責める意味ではなく、「知っておくと楽になる」ものとして読んでください。
- 「なんでこんなのが分からないの?」:一番言ってしまいがちな言葉。でもこれは、子どもの心のシャッターを下ろしてしまいます。分からないのは能力ではなく、つまずきの場所がまだ見えていないだけです。
- すぐに式や答えを教えてしまう:先回りして教えると、「考える前に待てば教えてもらえる」が習慣に。ぐっとこらえて、絵や図に一緒に付き合うほうが力になります。
- 計算ドリルの量で解決しようとする:文章題の苦手は、計算量では埋まりません。必要なのは「読む・想像する」練習のほうです。
- 「ちゃんと読みなさい」だけで終える:どう読めばいいか分からない子に「ちゃんと」は伝わりません。「一緒に声に出そう」と具体的な方法をそえてあげましょう。
- キーワードだけで機械的に解かせる:「”ずつ”が出たらかけ算」と丸暗記させると、少しひねられた問題で崩れます。図で意味を理解することが遠回りに見えて近道です。
- 長時間ねばらせる:疲れて泣きそうな状態での1問は、苦手意識だけを残します。「今日はここまで、よく頑張ったね」で切り上げる勇気も大切です。
がんばっているのは、お子さんだけじゃない
ここまで読んでくださったあなたは、それだけでもう十分にお子さんと向き合っています。文章題に付き合うのは、正直しんどい時もありますよね。忙しい夕方、夕飯の支度をしながら、なかなか進まないプリントを見て、こちらの気持ちがすり減っていく。その感覚は、多くの保護者が同じように抱えているものです。
だからどうか、「うまく教えられない自分」を責めないでください。教えることの専門家である先生たちでさえ、一人ひとりのつまずきを見取るのに時間をかけています。家庭でそれを完璧にやる必要はありません。あなたが隣で「一緒に考えよう」といてくれること。それ自体が、お子さんにとって何よりの安心なのです。うまくいかない日があってもいい。少し離れて、また明日でいいのです。
それに、算数の文章題の苦手は、今この瞬間に完璧に直さなければいけないものではありません。低学年でつまずいても、絵や図で場面を思いうかべる力がゆっくり育てば、学年が上がるにつれてぐっと伸びる子はたくさんいます。大切なのは、「文章題=いやなもの」という気持ちだけは大きくしないこと。だから、できた日には小さく喜び、できない日にはあっさり切り上げる。その積み重ねが、半年後、一年後のお子さんを支えます。焦らなくて、大丈夫です。

一人で抱えなくて、大丈夫。一緒に、ぼちぼちいきましょう。🌱
それでも続かない・見取りが難しいと感じたら
「つまずきの場所を見てあげよう」と言われても、毎日となると難しいですよね。そもそも、どこで止まっているのかを見取るには、少しコツと練習がいります。そんなとき、同じように悩む保護者と学び合いながら、専門家の視点を借りられる場所があると、ずいぶん心が軽くなります。
「保護者の学校」は、小学生の子をもつ保護者のためのオンラインコミュニティです。中部大学 現代教育学部 准教授で算数教育の研究者・樋口万太郎先生の月2回の声かけ講座で「見取り」や具体的な関わり方を学び、家庭で小さく試し、連絡帳(実践投稿)で振り返る。この学びのサイクルを、一人ではなく仲間と一緒に回していけます。「また言っちゃった」という日も、責められずに振り返れる。そんな場所です。


保護者向けオンラインコミュニティ「保護者の学校」
大学准教授で算数教育の研究者・樋口万太郎先生の月2回の声かけ講座で学び、家庭で小さく試し、連絡帳で振り返る。うまくいかない日も、一緒に振り返れる場所です。
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