「宿題やったの?」「あとでやる」。夏休み、この会話を1日に何度くり返しているでしょうか。ゲームや動画には夢中なのに、ドリルはずっと開かれないまま。ついきつい言い方になって、あとで「言いすぎたな」と落ち込む。せっかくの休みなのに、勉強のことでいつもピリピリしてしまう——そんな自分に、いちばんうんざりしているのは、あなた自身かもしれませんね。
でも、どうか安心してください。子どもが勉強しない小学生であることも、あなたの声かけがうまくいかないことも、決してあなたのせいではありません。じつは「勉強しない」の裏には、ちゃんと理由があります。そして、その理由に合った声かけに少し変えるだけで、親子の空気は驚くほどやわらぎます。この記事では、勉強しない小学生への声かけを、責めない前提で一緒に整理していきます。
お話をするのは、中部大学 現代教育学部 准教授で算数教育の研究者でもある樋口万太郎先生(元小学校教員)の視点も交えながら。夏休みだからこそ試せる関わり方も、あわせてお伝えします。肩の力を抜いて、読んでみてください。
「勉強しない」の裏にある、本当の理由
「やる気がない」「なまけている」。そう見えるとき、じつは別の理由が隠れていることがほとんどです。よくある理由を、具体的に見てみましょう。
① 分からなくて、止まっている
いちばん多いのがこれです。「やらない」のではなく「どこから手をつけていいか分からない」。特に算数は、前の単元でつまずくと、その先が全部あいまいになります。サボっているように見えて、本当は困っているのです。
② やり方が分からない
「勉強しなさい」と言われても、何をどうすればいいのか分からない子は多いもの。計画を立てる力はまだ育っている途中。方法が見えないと、人はなかなか動けません。
③ やる意味を感じられない
小学生にとって、受験も将来もまだ遠い話。「なんのためにやるの?」に答えが持てないと、目の前の楽しいこと(ゲームや遊び)が勝つのは自然なことです。
④ 「やらされている」と感じている
毎日「勉強しなさい」と言われ続けると、勉強そのものが「押しつけられる嫌なもの」になってしまいます。これがいちばんもったいない状態。本来の力があっても、心が拒否してしまいます。
⑤ 集中できる環境・習慣が整っていない
テレビがついている、机の上にゲームがある、そもそも「いつやる」が決まっていない。誘惑が多く、習慣がない環境では、大人でも集中は難しいもの。「やらない」のではなく「やりにくい」だけ、ということもよくあります。
⑥ ほかに夢中なことがある
ゲーム、動画、スポーツ、虫とり。夢中になれるものがあるのは、本来すばらしいこと。ただ、自制心はまだ育っている途中なので、放っておくと楽しいほうへ流れるのは当然です。頭ごなしに取り上げるより、折り合いのつけ方を一緒に考えるのが近道です。

「勉強しない」と感じたとき、私はまず「本当にやりたくないのか、それとも分からなくて動けないのか」を見てあげてほしいと思います。多くの場合、子どもは「やらない」のではなく、どこかで「止まっている」だけです。たとえば算数なら、くり下がりや九九、文章題のどこかで引っかかっている。私はこの、止まっている場所を見つけることを「見取り」と呼びます。ここが分かると、「勉強しなさい」ではなく「この問題のどこで迷ってる?」という声かけに変わります。責めるのではなく、つまずきを一緒に見つける。それが、動き出す第一歩です。
まずやってほしいのは「なぜ?」を見てあげること
お子さんが勉強しないとき、いきなり「やりなさい」と言う前に、ひとつだけ聞いてみてください。「勉強、なんか気が乗らない? それとも、やり方が分からない感じ?」。この問いかけで、①分からなくて止まっているのか、②方法が見えないのか、③気持ちの問題なのかが見えてきます。
もし「分からない」が理由なら、必要なのは叱咤ではなく、つまずいた1点に一緒に戻ること。もし「やり方が分からない」なら、「まず1ページだけ、一緒にやってみようか」と最初の一歩を手伝うこと。理由が見えれば、かける言葉は自然と決まります。「勉強しなさい」という一言ですべてを動かそうとするより、ずっと近道です。これが樋口先生の言う「見取り」の家庭版です。
たとえば、算数の宿題を前に固まっている子がいたとします。「勉強しなさい」と言えば、その場はしぶしぶ鉛筆を持つかもしれません。でも、手は動かない。ここで「この問題、どこまで分かった?」と聞いてみると、「わり算のやり方を忘れた」と返ってくることがあります。つまり、やる気の問題ではなく、知識が引き出せずに止まっていただけ。ここが分かれば、「じゃあ、九九のここを一緒に思い出してみよう」と、具体的に手伝えます。「勉強しない」の多くは、こんなふうに“見えていないつまずき”が正体なのです。まず理由を見てあげる。それだけで、声かけは驚くほど変わります。
「勉強しなさい」の代わりに使える7つの声かけ
ここからは、家庭ですぐ試せる声かけの具体例です。全部やろうとしなくて大丈夫。お子さんの様子に合わせて、ひとつずつ選んでみてください。
「今日はどの教科からやる?」と選ばせる
命令ではなく、小さな選択をゆだねる問いかけ。「やる/やらない」ではなく「どれから」を選ばせると、子どもは動きのスイッチが入りやすくなります。
「何時から始める?」と時間を決めてもらう
親が決めた時間はやらされ感に。「何時から?」と本人に決めてもらうと、「自分で決めた」という感覚が行動を後押しします。
「どこで迷ってる?」とつまずきを一緒にさがす
手が止まっていたら、「分からないの?」と決めつけず、「どこまでは分かった?」と聞いてみましょう。止まっている場所が見えると、次の一歩が示せます。
「言われる前に始めてたね」と過程をほめる
点数ではなく、机に向かえたこと・自分から動けたことをそのまま言葉に。結果より過程を認めると、「またやろう」の気持ちが育ちます。
「昨日より1問多いね」と成長を伝える
ほかの子とではなく、昨日のその子と比べる。小さな伸びを見つけて言葉にすると、子どもは自分の成長を実感できます。
「まず1ページだけ一緒にやろう」と最初を手伝う
いちばん重いのは「始めるまで」。最初の1問に付き合うだけで、あとは自分で進めることもよくあります。全部やらせようとしないのがコツです。
「ママは、こう思ってるんだ」と気持ちを正直に伝える
「勉強しなさい」ではなく、「できることが増えると、あなたの世界が広がると思ってるんだ」と、なぜ勉強してほしいのか自分の気持ちを伝える。命令より、ずっと心に届きます。

夏休みだからこそ効く、関わり方のコツ
夏休みは「勉強しない」がいちばん目立つ季節。でも裏を返せば、関わり方をゆっくり変えられる絶好の期間でもあります。いくつかコツをお伝えします。
- 生活リズムから整える:夜ふかし・朝寝坊が続くと、そもそも机に向かう気力が出ません。まず起きる時間をそろえるだけで、「勉強しない」がやわらぐことがあります。
- 「宿題やったの?」を1日1回に減らす:くり返すほど逆効果。回数を減らし、朝いちど「今日はいつやる?」と決めてもらえば、あとは見守りに徹せます。
- 涼しい午前に、短く終える:午後の暑い時間より、朝の涼しいうちに10分でも。「午前に済ませた」達成感が、午後の自由を気持ちよくします。
- 楽しみとセットにする:「これが終わったらプール」など、勉強のあとに楽しみを置くと、動く理由が生まれます。ごほうびは物より「体験」がおすすめです。
もうひとつ、夏休みならではのおすすめが「一緒にやる」です。ふだんは忙しくてなかなかできませんが、時間に余裕のある夏は、親も隣で本を読んだり、自分の調べものをしたり。「勉強しなさい」と言うより、同じ空間で静かに取り組む姿を見せるほうが、ずっと効きます。子どもは「見られている」より「一緒にいる」ほうが、安心して机に向かえるものです。ときには「ママもこれ苦手なんだよね」と弱音をこぼすくらいがちょうどいい。勉強は、親子でならぶ時間にもなり得るのです。
やりがちだけど逆効果になりやすいNG声かけ
よかれと思っての言葉が、かえって「勉強したくない」を強めてしまうこともあります。責める意味ではなく、「知っておくと楽になる」ものとして読んでください。
- 「勉強しなさい」をくり返す:言うほど「やらされ感」が募り、勉強嫌いを育ててしまいます。「いつやる?」と本人に返すほうが動きます。
- 「お姉ちゃんはできたのに」と比べる:きょうだいや友だちとの比較は、自信を確実に削ります。比べるなら「昨日のその子」とだけ。
- できていないところばかり指摘する:×ばかり数えると、勉強=ダメ出しの時間に。まず「できた1問」に光を当てましょう。
- 放っておいて無関心になる:強制の逆で「関心を向けない」も、子どもには寂しく響きます。やらせるのではなく、気にかけている姿勢を見せて。
- 怒って恐怖で動かす:その場は動いても、勉強=怖いもの、になってしまいます。長い目で見ると、いちばん遠回りです。
親のイライラは、悪いことじゃない
ここまで読んでくださったあなたは、それだけでもう十分にお子さんと向き合っています。勉強しない我が子を前にイライラしてしまうのは、あなたが冷たいからではありません。「この子のために」と本気で思っているからこそ、心が揺れるのです。その気持ち自体は、とても自然で、大切なものです。
だからどうか、イライラした自分を責めないでください。うまく声をかけられない日があってもいい。教えることの専門家でも、一人ひとりのやる気を引き出すのに時間をかけています。家庭でそれを完璧にやる必要はありません。深呼吸して、その場を少し離れて、また明日でいいのです。あなたが穏やかでいられることが、じつはいちばんの「声かけ」になります。
そして、勉強しない時期があっても、それでその子の人生が決まるわけではありません。今日動かなくても、かけ続けたやさしい言葉は、子どもの中にちゃんと積もっていきます。「勉強しなさい」ではなく「あなたのことを見てるよ」というメッセージは、たとえその場では響かなくても、いつか芽を出します。だから、結果を急がず、目の前のお子さんと、そしてがんばっているご自分を、どうか信じてあげてください。ぼちぼちで、大丈夫です。

一人で抱えなくて、大丈夫。一緒に、ぼちぼちいきましょう。🌱
それでも動かない・声かけに迷うときは
理由を見てあげようと思っても、毎日となると難しいですよね。そもそも「どこで止まっているか」を見取るには、少しコツと練習がいります。そんなとき、同じように悩む保護者と学び合いながら、専門家の視点を借りられる場所があると、ずいぶん心が軽くなります。
「保護者の学校」は、小学生の子をもつ保護者のためのオンラインコミュニティです。中部大学 現代教育学部 准教授で算数教育の研究者・樋口万太郎先生の月2回の声かけ講座で「見取り」や具体的な声かけを学び、家庭で小さく試し、連絡帳(実践投稿)で振り返る。この学びのサイクルを、一人ではなく仲間と一緒に回していけます。「また言っちゃった」という日も、責められずに振り返れる。そんな場所です。


保護者向けオンラインコミュニティ「保護者の学校」
大学准教授で算数教育の研究者・樋口万太郎先生の月2回の声かけ講座で学び、家庭で小さく試し、連絡帳で振り返る。うまくいかない日も、一緒に振り返れる場所です。
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