「宿題やったの?」と聞くと、返ってくるのは生返事。机には向かうけれど、鉛筆はちっとも動かない。声をかけるほど、お子さんの表情はどんどん曇っていく——勉強のやる気がない我が子を前に、どう声をかければいいのか分からなくなる。夏休みも中盤を過ぎ、「このままで2学期は大丈夫かしら」と気持ちがざわつく。そんな毎日を過ごしていませんか。でも、はじめにお伝えしたいことがあります。お子さんに勉強のやる気がないのは、あなたの育て方のせいでも、お子さんが怠け者だからでもありません。
やる気は、生まれつきの性格ではなく、「今、どんな状態にあるか」で大きく変わります。だからこそ、お子さんがどこで気持ちを止めているのかを見きわめれば、そこに合った声かけで、驚くほど動き出すことがあります。この記事では、中部大学 現代教育学部 准教授で算数教育の研究者でもある樋口万太郎先生(元小学校教員)の「見取り」の視点も交えながら、家庭でできるやる気の引き出し方を、やさしく整理していきます。時間にゆとりのある夏休みは、しかる回数を減らして、じっくり関わり直せるまたとない機会です。
なぜ勉強のやる気がないのか
「勉強のやる気がない」とひとことで言っても、気持ちが止まっている場所は子どもによって違います。じつは、多くの子は「やる気のない性格」なのではなく、やる気が出にくい状態に置かれているだけです。よくある4つの場所を見てみましょう。
① わからなくて、避けている
いちばん多いのがこれです。前の学年でつまずいた単元が土台にあると、開いても「わからない」しかない。人は、わからないことからは自然と逃げます。「やる気がない」ように見えて、じつは「わからなくてつらい」を、やらないことで守っているのです。
② できても認められず、張り合いがない
がんばって解けても「当たり前」で流され、まちがえたところばかり指摘される。これが続くと、「どうせやっても認めてもらえない」と、やる気がしぼんでいきます。認められる手ごたえ(有能感)は、やる気の大事な燃料です。
③ 何のためにやるか、目的が見えない
「なんで勉強するの?」への納得できる答えがないまま、「やりなさい」だけが続く状態です。大人でも、意味の分からない作業には身が入りません。目的が自分ごとになっていないと、勉強は「やらされる作業」になってしまいます。
④ 疲れ・詰め込みすぎで、気力が切れている
習い事や宿題で予定がぎっしり、睡眠も足りていない。心と体が疲れきっていると、そもそもやる気を出す元気が残りません。「なまけ」に見えて、じつは「もう限界」のサインだった、ということも少なくありません。

私の専門は算数ですが、「どこで止まっているか」を見てあげる——私が「見取り」と呼んでいるこの関わりは、教科を問いません。やる気もまったく同じです。わからなくて避けているのか、できても認められず張り合いを失っているのか、目的が見えていないのか、それとも疲れて気力が切れているのか。「やる気がない」とひとまとめに見えても、実際に止まっているのは、たいてい一か所だけです。そこを見つけて、その一段だけを手伝ってあげる。「もっとがんばりなさい」と全体を押すのではなく、止まっている一点をそっと外してあげることが、やる気では特に大切です。
まずは「どこで止まっているか」を見てあげる
お子さんの手が止まったら、いきなり「やる気を出しなさい」と押す前に、そっと様子を見てください。ドリルを開いた瞬間に固まるなら①のわからない、解けても表情が動かないなら②の認められなさ、「なんでやるの」と口にするなら③の目的、あくびや不機嫌が続くなら④の疲れ、というふうに、止まり方には手がかりがあります。おすすめは、責める前に「どこまでならできそう?」と一段だけ聞いてみること。ここでお子さんが答えられれば、あとはその一段を一緒に越えるだけです。「見取り」で止まっている場所が分かれば、やみくもに全部を励ます必要はなくなります。今日はその一点だけ、一緒にほどければ十分です。

前提を整える——やる気が出やすい「土台」づくり
声かけのコツに入る前に、家庭の土台を少しだけ整えておくと、やる気の出方がまるで変わります。
- まず体と生活リズムを整える:睡眠不足と疲れは、やる気の最大の敵です。夏休みこそ、早寝と朝の余白を。元気がなければ、やる気は湧きません。
- 勉強の「量」より「始めやすさ」を整える:机の上を片づけ、開けばすぐ始められる状態に。「あと1ページ」より「まず1問」のハードルの低さが動き出す力になります。
- できたことに目を向けるクセをつける:まちがい探しではなく、「ここまでできたね」を先に。認められる実感が、次のやる気を連れてきます。
- 比べるのをやめる:きょうだいや友だちとの比較は、やる気をいちばん削ります。比べる相手は「昨日のその子」だけで十分です。
今日から試せる、やる気を引き出す7つの声かけ
全部を一度にやろうとしなくて大丈夫。お子さんが止まっている場所に合わせて、必要なところから試してみてください。
まず「できた」を一緒に喜ぶ
1問解けた、机に向かえた。その小さな「できた」を、その場で一緒に喜んでください。「できたね!」の一言が、②の張り合いのなさをほどきます。やる気は、認められた実感の後からついてきます。
ハードルを思いきり下げる(まず1問だけ)
「ドリル1ページ」ではなく「まず1問だけ」。①のわからなさで固まる子には、始められる小ささが特効薬です。動き出しさえすれば、そのまま続く子はとても多いです。
結果より「過程」を具体的に認める
点数や正解数ではなく、「昨日より丁寧に書けたね」「最後まで見直したね」と、やり方や努力そのものを言葉に。過程をほめられた子は、次も自分から取り組みやすくなります。
子どもに「選ばせる」(自己決定)
「算数と漢字、どっちから?」「何時に始める?」と、小さな選択をお子さんにゆだねる。自分で決めたことには、人は自然と身が入ります。③の「やらされ感」を減らす大切な一手です。
「好き・得意」から入る
苦手からではなく、好きな教科・得意な問題から始めると、気持ちのエンジンがかかります。図鑑でもクイズでもOK。「面白い」の入口を先に開くことが、やる気の呼び水になります。
ごほうびに頼りすぎない
ごほうびは、たまの後押しには有効ですが、常用すると「もらえないならやらない」に傾きます。物より、「がんばりを見ていたよ」という言葉のごほうびを軸に。理由は次章でくわしく触れます。
「休ませる勇気」を持つ
④の疲れが原因なら、いちばんの声かけは「今日はもう休もう」。無理に机に向かわせても逆効果です。しっかり休んで元気が戻れば、やる気は自然と回復します。引き算の勇気も、立派なサポートです。
ごほうびは効く?——「内発的なやる気」を育てる視点
「ごほうびで釣るのはよくない気がするけれど、どこまでならいいの?」——多くの保護者が迷うところですよね。ここで一つ、研究の知見が助けになります。ベネッセ教育総合研究所は、内発的動機づけを「興味や関心、楽しさのように学習自体を目的とした動機づけ」と説明し、それは自律性・有能感・関係性という3つの心理的欲求が満たされることで高まる、と自己決定理論をふまえて紹介しています(出典:ベネッセ教育総合研究所「子どもの学習動機の変容と新たな研究課題」)。かみくだくと、「自分で選べた」「できた」「見てもらえている」という実感が、いちばん続くやる気を育てるということ。前章のステップ04(選ばせる)・01(できたを喜ぶ)・03(過程を認める)は、まさにこの3つを満たす声かけです。ごほうびが悪いわけではありませんが、頼りすぎると外からの動機に偏ってしまう。だからこそ、日々の土台は「言葉のごほうび」で整えてあげるのがおすすめです。
「まだやる気が出ない」でも焦らなくて大丈夫
やる気は、スイッチのように一度でオンになるものではありません。出たり引っこんだりを繰り返しながら、少しずつ育っていくものです。今日ドリルを開けなくても、それでこの子の学力や将来が決まるわけではありません。むしろ、この時期に「勉強=しかられるいやなもの」と刷り込んでしまわないことのほうが、ずっと大切です。周りの子が塾でがんばっていると聞くと焦りますが、比べる必要はありません。1問解けた、自分で「やる」と言えた、昨日より5分長く座れた——その小さな一歩を、どうか一緒に喜んであげてください。やる気が自分から湧いてくるのは、そうした「できた」の積み重ねの先です。夏休みは、その積み重ねにあわてず付き合える、貴重な時間です。
やりがちだけど逆効果になりやすいNG
よかれと思っての関わりが、かえって「やる気のなさ」を強めてしまうこともあります。責める意味ではなく、「知っておくと楽になる」ものとして読んでください。
- 「勉強しなさい」を繰り返す:命令されるほど、人は反発してやる気を失います(心理的リアクタンス)。指示より、選ばせる問いかけに変えましょう。
- 他の子やきょうだいと比べる:「〇〇ちゃんはできるのに」は、やる気をいちばん削る一言。比べるなら昨日のその子とだけ、が鉄則です。
- できて当たり前・まちがいだけ指摘:できたところをスルーして減点ばかりだと、張り合いが消えます。まず「できた」に光を当ててください。
- ごほうびで釣り続ける:常用すると「もらえないならやらない」に。たまの後押しにとどめ、言葉のごほうびを軸にしましょう。
- 疲れているのに無理やりやらせる:気力切れの子に詰め込んでも逆効果。休ませてから、が結局いちばんの近道です。
がんばっているのは、お子さんだけじゃない
ここまで読んでくださったあなたは、それだけでもう十分にお子さんと向き合っています。やる気の出ない子に毎日声をかけ続けるのは、思っている以上に骨の折れることですよね。かけた言葉が届かず、こちらの気持ちまですり減っていく。「私の関わり方が悪いのかな」と、夜にひとり落ち込む——その感覚は、多くの保護者が同じように味わっています。
だからどうか、「うまくやる気を引き出せない自分」を責めないでください。やる気は、家庭だけで完璧にコントロールできるものではありません。あなたが隣で「どこまでならできそう?」と一緒に考えてくれること、疲れた日には「今日は休もう」と言ってくれること。その関わりそのものが、お子さんの「またやってみよう」を静かに支えています。今日動けなくても、また明日でいい。夏休みのあいだにゆっくり、で大丈夫です。1問できた日には、一緒に大きく喜んであげてください。

一人で抱えなくて、大丈夫。一緒に、ぼちぼちいきましょう。🌱
それでもやる気が出ない・一人だと迷うときは
いろいろ工夫しても、毎日ひとりで声をかけ続けるのは大変です。「この子はどこで止まっているんだろう」「どう言えばやる気が戻るんだろう」——そんな悩みを、同じ立場の保護者や専門家と分かち合える場所があると、ずいぶん心が軽くなります。
「保護者の学校」は、小学生の子をもつ保護者のためのオンラインコミュニティです。中部大学 現代教育学部 准教授で算数教育の研究者・樋口万太郎先生の月2回の声かけ講座で「見取り」や具体的な関わり方を学び、家庭で小さく試し、連絡帳(実践投稿)で振り返る。この学びのサイクルを、一人ではなく仲間と一緒に回していけます。声をかけても動かない日も、責められずに振り返れる。そんな場所です。


保護者向けオンラインコミュニティ「保護者の学校」
大学准教授で算数教育の研究者・樋口万太郎先生の月2回の声かけ講座で学び、家庭で小さく試し、連絡帳で振り返る。うまくいかない日も、一緒に振り返れる場所です。
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