今日も水筒を忘れた。昨日は体操着、その前は連絡帳。毎朝「持ち物ちゃんと入れた?」と確認しているのに、なぜかランドセルからこぼれ落ちていく——忘れ物が多い小学生に、ため息が出てしまう日、ありますよね。何度言っても直らないと、つい「また忘れたの!」「何度言えばわかるの」と強い言葉が出て、あとで自己嫌悪になる。そんな経験は、あなただけではありません。でも、お子さんの忘れ物が減らないのは、やる気がないからでも、あなたのしつけが足りないからでもありません。
忘れ物は、「持ち物を知る」→「覚えておく」→「前もって用意する」→「持って出る」という、いくつもの段取りが重なった、じつは高度な作業です。だからこそ、どの段階でこぼれているのかを見きわめて、そこだけ仕組みで支えれば、驚くほど減っていきます。この記事では、中部大学 現代教育学部 准教授で算数教育の研究者でもある樋口万太郎先生(元小学校教員)の「見取り」の視点も交えながら、責めずに忘れ物を減らす関わり方を、やさしく整理していきます。生活リズムを立て直しやすい夏休みの今は、新しい習慣を仕込むのにちょうどいい時期です。
なぜ忘れ物が多いのか
「忘れ物が多い小学生」とひとことで言っても、つまずいている場所は子どもによって違います。多くの子は「だらしない」のではなく、「どこで用意が抜けるか」に気づけていないだけです。よくある4つの場所を見てみましょう。
① 準備を前日にする習慣がない
朝の慌ただしい時間に一気に用意しようとして、抜けが出るケースです。眠くて頭が回らない、時間がない、テレビや遊びに気を取られる——朝は、いちばん忘れ物が生まれやすい時間帯。前日の落ち着いた時間に用意する習慣がないと、毎朝が“運まかせ”になってしまいます。
② 時間割・持ち物の見通しが立たない
そもそも「明日は何がいるのか」を把握できていないケースです。連絡帳の書き忘れ、おたよりの見落とし、時間割の確認不足。低学年ほど先を見通す力が育っている途中で、「明日の準備」という段取り自体がまだ難しいことも多いのです。
③ 物の置き場所が決まっていない
用意しようにも、道具箱や体操着、給食袋がどこにあるか分からず、探しているうちに時間切れ——というケースです。物の定位置が決まっていないと、片づけも準備も毎回ゼロからの宝探しになり、当然こぼれやすくなります。
④ 不注意な特性への配慮が必要な場合も
用意したはずなのに入れ忘れる、途中で別のことに気を取られてしまう。こうした傾向が強い子は、生まれ持った特性として、注意を持続させたり複数のことを同時に覚えておいたりするのが苦手な場合があります。これは「気合い」の問題ではなく、叱って直るものでもありません。仕組みで支えるべき場所です。

私の専門は算数ですが、「どこで止まっているか」を見てあげる——私が「見取り」と呼んでいるこの関わりは、教科を問いません。忘れ物もまったく同じです。そもそも明日の持ち物を把握できていないのか、把握はできているのに前日に用意する習慣がないのか、用意しようにも物の置き場所が決まっていないのか、それとも入れたつもりで抜けてしまうのか。「うちの子は忘れ物が多い」とひとまとめに見えても、実際にこぼれているのは、たいてい一か所です。そこを見つけて、その一段だけを仕組みで支えてあげる。叱って全部を一度に直そうとしないことが、忘れ物では特に大切です。
まずは「どこで止まっているか」を見てあげる
忘れ物が続いたら、いきなり「しっかりしなさい」と叱る前に、そっと一緒に振り返ってみてください。「明日いるもの、どこで分かる?」と聞いて連絡帳をスラスラ出せるなら、①の“把握”はできています。こぼれているのは前日準備か、物の定位置か。逆に「わからない」と黙ってしまうなら、まだ見通しの段階かもしれません。おすすめの順番は、①明日の持ち物を連絡帳で確認する → ②前日の夜に用意する → ③道具の定位置を決めておく → ④玄関で最後にもう一度チェックする、という流れです。「見取り」で抜けている場所が分かれば、やみくもに全部を管理する必要はなくなります。今日はその一段だけ、一緒に整えれば十分です。

前提を整える——「前日に」と「仕組みで」
具体的なコツに入る前に、家庭の土台を少しだけ整えておくと、朝の景色がまるで変わります。
- 朝の一発勝負をやめる:準備は、頭が疲れていない前日の夜に。朝にまとめてやろうとするほど、抜けは増えます。夜のうちにランドセルを閉じておくのが理想です。
- 「覚えておく」を子どもの頭に頼らない:忘れ物は記憶力の問題にしがち。でも大人でも予定はメモに頼ります。チェックリストや定位置という“外の仕組み”で支えましょう。
- 置き場所を決めてしまう:体操着・給食袋・ハンカチの定位置を決めるだけで、準備が「探す」から「取ってしまう」に変わります。見取りの土台になります。
- 親は「管理者」ではなく「伴走者」に:先回りして全部そろえるより、隣で一緒に確認する。自分で用意できた実感が、次の一歩を育てます。
今日から試せる、忘れ物を減らす7ステップ
全部を一度にやろうとしなくて大丈夫。お子さんがこぼしている場所に合わせて、必要なステップから試してみてください。
準備は「前日の夜」を定位置に
お風呂のあと、寝る前など、毎日同じタイミングで用意する時間を決めます。「夜に準備」が習慣になるだけで、朝のバタバタと忘れ物がまとめて減っていきます。
「持ち物チェックリスト」をつくる
毎日いる物(連絡帳・筆箱・ハンカチ・水筒など)を一覧にして、玄関やランドセル置き場に貼る。子ども自身が指さして確認できると、「入れたつもり」の抜けがぐっと減ります。
玄関に「忘れ物ゼロ」置き場をつくる
前日に用意した物を、玄関のカゴやフックにまとめて置く“出発ステーション”を用意。朝はそれを持つだけ。目につく最後の関門があると、こぼれをキャッチできます。
時間割と連絡帳を「一緒に」確認する
準備の最初に、明日の時間割と連絡帳を親子で開く。「図工があるね、何がいる?」と一言添えるだけ。特別な持ち物やイレギュラーは、ここで一緒に拾うのが確実です。
道具の「定位置」を決める
体操着はこの引き出し、給食袋はこのフック、と場所を固定。片づけも準備も“いつもの場所”に戻すだけになり、探し物の時間切れによる忘れ物が消えていきます。
責めるのではなく、仕組みで解決する
忘れ物が出たら「なんで!」ではなく「どうすれば防げそう?」と一緒に考える。チェックリストに一行足す、置き場を変える。原因を仕組みに変換すると、同じ忘れ物が繰り返されにくくなります。
「できた日」を必ず言葉にする
忘れなかった日に「今日は全部そろってたね」と声をかける。できたことに光を当てると、子どもは仕組みを“自分のもの”として続けたくなります。ここが定着の分かれ道です。
叱っても減らないのは、なぜ?
「あれだけ言ったのに、また忘れた」——強く叱るほど直りそうな気がしますが、じつは逆効果になりやすいところです。叱責で減るのは「忘れ物」ではなく「自信」のほう。責められ続けた子は、「どうせ自分はダメだ」と自己肯定感を下げ、かえって注意が散りやすくなってしまいます。忘れ物は、気持ちの問題ではなく段取りの問題。だからこそ、感情ではなく仕組みで支えるのが近道です。国も、早寝早起きや朝ごはんといった基本的な生活習慣が子どもの生活リズムや自立の土台になると位置づけ、家庭での習慣づくりを呼びかけています(参考:文部科学省「早寝早起き朝ごはん」国民運動)。前日に用意する習慣も、この“暮らしのリズム”の一部。叱って直すものではなく、生活の中に無理なく埋め込んでいくものだと考えると、気持ちが少し軽くなります。なお、不注意の傾向が強く日常生活に困りごとが続く場合は、抱え込まず学校の先生やスクールカウンセラーに相談を。ここでは特性を決めつけず、あくまで家庭でできる工夫としてお伝えしています。
「まだ自分で用意できない」でも焦らなくて大丈夫
忘れ物は、学年が上がり見通す力が育つにつれて、少しずつ減っていくものです。低学年のうちは、親が一緒に確認してあげて当たり前。「自分一人で完璧に」を今すぐ求めなくて大丈夫です。今こぼれていても、それでこの子の将来が決まるわけではありません。むしろ、忘れ物をきっかけに「自分はダメな子だ」と感じさせないことのほうが、ずっと大切です。親が全部そろえて“忘れ物ゼロ”を演出するより、たどたどしくても「自分で用意できた」という感覚が積み重なるほうが、来年のその子を支えます。周りの子と比べて焦る必要はありません。チェックリストを指させた、前日に一つ用意できた、玄関の置き場を使えた——その小さな一歩を、どうか一緒に喜んであげてください。自分で管理できるようになるのは、その積み重ねの先です。夏休みは、その土台をあわてず仕込める、貴重な時間です。
やりがちだけど逆効果になりやすいNG
よかれと思っての関わりが、かえって「忘れ物ぐせ」を長引かせてしまうこともあります。責める意味ではなく、「知っておくと楽になる」ものとして読んでください。
- 「また忘れたの!」と強く叱る:減るのは自信のほう。自己肯定感が下がると、かえって注意が散りやすくなります。「どうすれば防げる?」に置き換えを。
- 親が毎回すべて用意してしまう:忘れ物は消えても、自分で準備する力は育ちません。用意するのは子、親は隣で確認する伴走役に。
- 忘れるたびに学校へ届ける:毎回届けると「忘れても大丈夫」が学習されてしまいます。時には困った経験も、次への学びになります。
- 記憶力だけに頼らせる:「ちゃんと覚えておきなさい」は、大人でも難しい注文。チェックリストや定位置という“外の仕組み”で支えましょう。
- できた日をスルーする:忘れた日だけ反応すると、頑張りが報われません。そろった日にこそ「できたね」を。定着はここで決まります。
がんばっているのは、お子さんだけじゃない
ここまで読んでくださったあなたは、それだけでもう十分にお子さんと向き合っています。毎朝の持ち物確認、前日の声かけ、忘れ物が続いたときのやきもき——それは、思っている以上に神経をすり減らすことですよね。何度言っても減らないと、「私のしつけが甘いのかな」と自分を責めてしまう。その感覚は、多くの保護者が同じように味わっています。
だからどうか、「うまく管理できない自分」を責めないでください。忘れ物を家庭だけで完璧にゼロにする必要はありません。あなたが隣で「明日は何がいるかな」と一緒に確認してくれること。その毎日のひと手間そのものが、お子さんの“自分で準備する力”を静かに育てています。今日忘れても、また明日でいい。夏休みのあいだにゆっくり仕組みを整えていく、で大丈夫です。そろった日には、一緒に大きく喜んであげてください。

一人で抱えなくて、大丈夫。一緒に、ぼちぼちいきましょう。🌱
それでも減らない・一人だと迷うときは
いろいろ工夫しても、毎日ひとりで声をかけ続けるのは大変です。「この子はどこでこぼしているんだろう」「どう仕組みをつくれば続くんだろう」——そんな悩みを、同じ立場の保護者や専門家と分かち合える場所があると、ずいぶん心が軽くなります。
「保護者の学校」は、小学生の子をもつ保護者のためのオンラインコミュニティです。中部大学 現代教育学部 准教授で算数教育の研究者・樋口万太郎先生の月2回の声かけ講座で「見取り」や具体的な関わり方を学び、家庭で小さく試し、連絡帳(実践投稿)で振り返る。この学びのサイクルを、一人ではなく仲間と一緒に回していけます。忘れ物が続いた日も、責められずに振り返れる。そんな場所です。


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