机には向かっている。でも5分もすると鉛筆が止まり、消しゴムで遊びだしたり、窓の外をぼんやり眺めたり。「ちゃんと集中しなさい」と声をかけても、また数分でどこかへ気持ちが飛んでいく——集中力がない小学生の様子を毎日見ていると、「うちの子は大丈夫だろうか」とだんだん心配になってきますよね。夏休みの宿題やドリルを前に、そんなため息をついている保護者は、あなただけではありません。でも、お子さんが勉強に集中できないのは、やる気がないからでも、あなたの育て方のせいでもありません。
そもそも子どもの脳は、長く集中し続けられるようにはまだ育っていません。集中が切れるのには必ず理由があり、その多くは家庭のちょっとした工夫で整えられるものです。この記事では、中部大学 現代教育学部 准教授で算数教育の研究者でもある樋口万太郎先生(元小学校教員)の「見取り」の視点も交えながら、集中力がない小学生への家庭での関わり方を、やさしく整理していきます。生活リズムを立て直しやすい夏休みは、集中の土台をつくり直す、またとない機会です。
なぜ集中力がない小学生になるのか
「集中力がない」とひとことで言っても、集中を妨げている原因は子どもによって違います。多くの場合、それは「気合いが足りない」からではなく、集中しにくい条件がいくつも重なっているだけです。よくある4つの場所を見てみましょう。
① 気が散るものが多い(環境)
机の上におもちゃやマンガ、タブレット。近くでテレビがついていたり、きょうだいが遊んでいたり。子どもは大人よりずっと、まわりの音や物に気を取られやすい存在です。集中できないのは意志の弱さではなく、気が散る材料が視界と耳に多すぎるだけ、ということが本当によくあります。
② 時間が長すぎる(発達段階に対して)
「30分も座っていられない」と悩む声は多いのですが、そもそも小学生が一つのことに集中できる時間は、大人が思うよりずっと短いものです。年齢が低いほど持続時間は短く、発達の途中。長い学習時間を一度に求めると、後半はただ「座っているだけ」になり、集中していないように見えてしまいます。
③ 内容が難しすぎる・易しすぎる
取り組んでいる問題が、その子にとって難しすぎると「わからない→つまらない→集中できない」に。逆に、簡単すぎても退屈で気持ちが離れます。集中はちょうどよい手ごたえのときに続きやすいもの。プリントの中身が、いまのその子に合っているかは意外と見落とされがちです。
④ 睡眠・空腹・生活リズム(体のコンディション)
寝不足でぼんやりしている、おなかが空いている、ゲームや動画で夜ふかしが続いている。こうした体のコンディションは、集中力に直結します。どんなに環境を整えても、体が整っていなければ集中は続きません。じつは、ここがいちばんの土台になっていることも少なくありません。

私の専門は算数ですが、「どこで止まっているか」を見てあげる——私が「見取り」と呼んでいるこの関わりは、教科を問いません。集中力の話もまったく同じです。「集中力がない」とひとまとめに見えても、実際には、まわりが気になって集中できないのか、そもそも時間が長すぎるのか、内容が合っていないのか、それとも寝不足で体が整っていないのか——止まっている場所はたいてい一つか二つに絞れます。「集中しなさい」と気合いを求める前に、まず何が集中を邪魔しているのかを見てあげる。原因が見えれば、打つ手は自然と決まってきます。
まずは「なぜ集中できないのか」を見てあげる
お子さんの手が止まったとき、いきなり「集中しなさい」と言う前に、少し観察してみてください。机のまわりに気が散る物はありませんか。始めてから何分で切れていますか。解いている問題は、その子にとって難しすぎたり簡単すぎたりしていませんか。昨夜はよく眠れていましたか。この4つを順に見ていくと、「うちの子はここでつまずいている」という場所が見えてきます。すべてを一度に直す必要はありません。いちばん効きそうな一つから整えるだけで、集中の続き方は変わります。「見取り」で原因が分かれば、やみくもに叱る必要はなくなります。今日はその一つだけ、一緒に整えれば十分です。

前提を整える——「短く」と「気が散らない」
具体的なコツに入る前に、家庭の土台を少しだけ整えておくと、集中の続き方がまるで変わります。
- 「長く座らせる」をやめる:集中できる時間は年齢とともに少しずつ延びます。いまは短くて当たり前。長時間より、短く区切るほうが結果的に進みます。
- 机の上を「今やること」だけに:おもちゃ・マンガ・タブレットは視界の外へ。物が減るだけで、気が散る回数がぐっと減ります。
- 始める時間帯を選ぶ:疲れきった夜より、頭がすっきりしている午前や、おやつのあとなど、その子が集中しやすい時間帯を家庭で見つけておきましょう。
- 「できた」を一緒に確認する:終わりが見えないと集中は続きません。「ここまでやったね」と区切りごとに認めると、次の一歩が軽くなります。
今日から試せる、集中力を高める7ステップ
全部を一度にやろうとしなくて大丈夫。お子さんが止まっている場所に合わせて、必要なステップから試してみてください。
机まわりを片づけて「気が散る物」を減らす
まずは環境から。机の上は今やるプリントと筆記用具だけに。おもちゃやタブレットは別の部屋へ。テレビは消す。視界と耳から気が散る材料を取り除くのが、いちばん手っ取り早い一歩です。
時間を短く区切る(タイマーを使う)
「30分がんばろう」ではなく、「まず10分だけ」。タイマーをセットして、鳴ったら休憩。短い集中を何回か重ねるほうが、長く座らせるよりずっと進みます。ゴールが見えると、子どもは驚くほど集中します。
やることを「1つ」に絞る
「宿題とドリルとプリント」と並べると、それだけで気持ちが散ります。「まずはこの1枚だけ」と一つに絞る。目の前の課題が一つになると、子どもは迷わず取りかかれます。
「できた」を見える化する
1問ごとに丸をつける、終わったらシールを貼る、チェックリストを消していく。小さな達成が目に見えると、「もう1問やろう」という気持ちが自然にわいてきます。ほめる回数も自然と増えます。
集中しやすい「時間帯」を選ぶ
頭がすっきりしている午前中や、おやつを食べたあとなど、その子が集中しやすいタイミングを探しましょう。疲れきった夜に無理をさせるより、コンディションのいい時間に短く取り組むほうが、ずっとはかどります。
体を動かす休憩をはさむ
集中が切れたら、その場で叱るより一度リセット。少し歩く、伸びをする、水を飲む、外の空気を吸う。体を軽く動かすと気持ちが切り替わり、次の集中に入りやすくなります。休憩は「サボり」ではなく作戦です。
睡眠と生活リズムを整える
すべての土台は体のコンディション。早めに寝て、朝ごはんをしっかり食べるだけで、日中の集中は変わります。夜ふかしや朝食抜きが続くと、どんな工夫も効きにくくなります。まず眠りから、が近道のこともあります。
睡眠・朝ごはんと集中——生活リズムという土台
環境や時間の工夫をいろいろ試しても集中が続かないとき、見落とされがちなのが生活リズムです。文部科学省も、朝ごはんや睡眠といった基本的な生活習慣の乱れが「学習意欲や体力、気力の低下の要因の一つ」として指摘されていると述べています(出典:文部科学省「文部科学白書」)。同じ資料では、毎日朝食を食べる子どもほどテストの得点が高い傾向にある、という調査結果も紹介されています。つまり、集中力は机の前だけで決まるものではなく、その日の眠りや朝の一皿から始まっているということです。夏休みは、乱れがちな就寝時刻や朝ごはんを立て直しやすい時期。「早く寝なさい」と叱るより、一緒に寝る時間を決めて、朝ごはんをゆっくり食べる——そんな小さな習慣が、2学期の集中の土台になります。
「まだ集中できない」でも焦らなくて大丈夫
集中して取り組める時間は、学年が上がるにつれて少しずつ延びていくものです。低学年のうちは、10分続けば立派。「大人と同じように長く座っていてほしい」と最初から求めなくて大丈夫です。今すぐ長く集中できなくても、それでこの子の力が決まるわけではありません。むしろ、「集中できない自分はダメだ」と感じさせないことのほうが、ずっと大切です。叱られ続けて勉強そのものを嫌いになるより、短くても「できた」を積み重ねるほうが、来年のその子を支えます。周りの子と比べて焦る必要はありません。机の上を片づけられた、10分座れた、1枚やりきれた——その小さな一歩を、どうか一緒に喜んであげてください。集中力は、その積み重ねの先で少しずつ育っていきます。夏休みは、その積み重ねにじっくり付き合える、貴重な時間です。
やりがちだけど逆効果になりやすいNG
よかれと思っての関わりが、かえって集中を妨げてしまうこともあります。責める意味ではなく、「知っておくと楽になる」ものとして読んでください。
- 「集中しなさい」と抽象的に叱る:どうすればいいか分からず、子どもはただ責められた気持ちに。「まず机の上を片づけよう」と具体的な行動で伝えましょう。
- ずっと隣で見張る:監視されていると、気になって逆に集中できません。声をかけたくなっても、少し離れて見守るほうがはかどります。
- 集中しているのに話しかける:ノッてきたところで「まだ終わらないの?」と口を出すと、せっかくの集中が切れてしまいます。乗っているときは、そっとしておきましょう。
- 長時間ぶっ通しでやらせる:疲れた頭では集中できません。休憩をはさまず続けさせるほど、後半は空回りします。短く区切るが鉄則です。
- 「うちの子は集中力がない」と決めつける:本人の前で繰り返すと、「自分はそういう子だ」と思い込んでしまいます。条件を整えれば集中できる、を前提に関わりましょう。
がんばっているのは、お子さんだけじゃない
ここまで読んでくださったあなたは、それだけでもう十分にお子さんと向き合っています。集中力がない子に毎日付き合うのは、思っている以上に骨の折れることですよね。声をかけては気が散り、席を立ち、また呼び戻す。その繰り返しに、こちらの気持ちもすり減っていく。付き合っても進まないと、つい強い言葉が出てしまって、あとで落ち込む。そんな夜を過ごしている保護者は、決して少なくありません。
だからどうか、「うまく集中させられない自分」を責めないでください。子どもの集中力は、環境や発達、その日の体調など、いくつもの条件が重なって決まるもの。家庭でそれを完璧に整える必要はありません。あなたが「どうすれば集中しやすいかな」と一緒に考えてくれること。その姿勢そのものが、お子さんにとって何よりの支えになっています。今日うまくいかなくても、また明日でいい。夏休みのあいだにゆっくり、で大丈夫です。10分集中できた日には、一緒に大きく喜んであげてください。

一人で抱えなくて、大丈夫。一緒に、ぼちぼちいきましょう。🌱
それでも集中できない・一人だと迷うときは
いろいろ工夫しても、毎日ひとりで付き合い続けるのは大変です。「この子はどこで集中が切れているんだろう」「どう声をかければ気持ちが乗るんだろう」——そんな悩みを、同じ立場の保護者や専門家と分かち合える場所があると、ずいぶん心が軽くなります。
「保護者の学校」は、小学生の子をもつ保護者のためのオンラインコミュニティです。中部大学 現代教育学部 准教授で算数教育の研究者・樋口万太郎先生の月2回の声かけ講座で「見取り」や具体的な関わり方を学び、家庭で小さく試し、連絡帳(実践投稿)で振り返る。この学びのサイクルを、一人ではなく仲間と一緒に回していけます。集中が続かず手を焼いた日も、責められずに振り返れる。そんな場所です。


保護者向けオンラインコミュニティ「保護者の学校」
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